番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(26)

 いろいろとあちこちに飛んでしまったが、話をこの稿のもともとのテーマである『IR実施法案』における「ジャンケット」の取り扱いに戻す。六本木のやくざが出てきたり、旧帝国陸海軍が出てきたり、韓国大統領が出てきたり、「銀座のカマキリ」が出てきたり、香港三合会が出てきたり、日本の右翼の巨魁が出てきたり、中国共産党が出てきたり、と読むほうも大変だったかもしれないが、書くほうはもっと大変なのである(笑)。

 安倍政権が崩壊しない限り(あるいは崩壊しても)、この秋の臨時国会には『IR実施法案』は上程される予定だ。昨年(2016年)末に成立した『IR推進法案』で、「1年以内に」と定められているからである。もっとも臨時国会には、自民党の「改憲案」も上程する(と安倍は言っている)そうだから、どう転ぶかはわからない。

 さて『IR実施法案』で、ジャンケットはどう位置付けられるのか?

「ジャンケットは、これを認めない」

 とされるのだろう。

 ないしは条文に、ジャンケット(=カジノ仲介業者)という言葉は一切出てこない可能性も消せない。これだと、カジノ開業以降にどうとでも「解釈」できるようになるからである。

 実際に条文を書くのは官僚なのだろうが、『IR実施法』は、政府によって指名された「IR推進会議」の有識者メンバーを中心として策定される。メンバーは以下の8名だ。

 熊谷亮丸(大和総研・常務、チーフエコノミスト)

 桜井敬子(学習院大学・法学部教授)

 篠原文也(政治解説者)

 武内紀子(コングレ社長)

 丸田健太郎(あずさ監査法人パートナー・公認会計士)

 美原融(大阪商業大学・教授)

 山内弘隆(一橋大学大学院・商学研究科教授)

 渡辺雅之(三宅法律事務所パートナー・弁護士)

 このメンバーで、カジノ産業の「現場」にかかわる知見がとりわけ豊富なのは、わたしが知る限り美原融・大阪商業大学教授である。三井物産戦略研究所に在籍していたころから、ここ25年以上もカジノ産業の研究をしてきた人だ。

 カジノ産業というのは、その法規制だけを学んでも、また数字だけを読み込んでも、「現場」を知らないと、よくわからない部分がある。そしてことジャンケットに関すれば、現場を知っているつもりでも、不透明というか闇の部分が多い。

 そうでなくとも井川大王製紙元会長事件で、ジャンケットを、

 ――カジノから、客の総ベット額(=ターンオーヴァー)のパーセンテージを報酬としてキックバックされる、外部委託されたVIP部ホスト。

 なんてトンデモ解説をしていた「日本で数少ないカジノ研究者」がいた。

 もっともこの「日本で数少ないカジノ研究者」は、無知識や法螺がバレる(またそれが多い)と、こそこそと記事を削除したり改竄したりしていた。最近では、自身が過去に申告した経歴まで書き換えているそうである。経歴詐称がバレた、とでも思ったのだろうか(笑)。

 2002年の法規制により、マカオで活動する大手のジャンケット事業者が、直接的な「地下銀行」の役割を果たすことは、もうなくなった。金融業者とかエージェントとか口利き業とか仲介者とかが、中間で何重にも絡むようなシステムになっている。大手ジャンケット事業者たちは、キレイなものだ。

 また、ここ数年の北京政府の「蠅も虎も叩く」とする「反腐敗政策」の影響で、マカオの(ジャンケットではなくて)カジノ事業者たちに流れるカネの動きも、厳しく監視されている。おかげで打ち手たちは、ハウスの「プレミアム・プログラム」に参加する際、何枚もの書類にサインしなければならなくなった。昔は、紙っぺら一枚にサインすればよかっただけなのだが。

 まあ、それゆえ、マニラやサイパンのカジノが急成長している、という事実はある。そういえば、日本のハイローラーが多く顧客としてついていたマカオの(ジャンケットではない)大物VIP部ディレクターは、サイパンに転職しちゃいましたな。今度彼からじっくりと事情を聞いてこよう。

⇒続きはこちら 番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(27)

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。