番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(27)

 以前説明したように、日本で政府公認カジノがオープンしてからの5~6年は、国内の「グラインド・プレイヤー(GRIND PLAYER。一般フロアで打つ人たちのこと)」だけでも、ハウス側は充分な収益が見込める、とわたしは予測する。

 しかし、一回につき5万円・10万円程度のバンク・ロールでは、とても勝利が覚束(おぼつか)ないのが、カジノでおこなわれるゲーム賭博である。パチンコ屋に行く感覚でカジノに通っても、負け続けるだけだろう。つまり、遅かれ早かれ、というか多くの場合「早かれ」資金が尽きる。

 新しい世代の打ち手たちがぞろぞろと湧いてくれれば、また話は別である。しかし日本は、これから極端な少子高齢・人口減少社会を迎える。経済成長は望めないどころか、おそらく経済停滞ないし緩慢な凋落が常態となっていくのだろう。それゆえ金銭的余裕をもった新しい世代の打ち手たちが、どんどん湧いてくるとは、とても考えられない。

 当たり前の話で、恐縮だ。

 カジノが収益を上げるぶんだけ、従来の打ち手たちの資金は枯渇する。メガ・カジノは、駅前にあるパチンコ・ホールと違うのである。「グラインド・プレイヤー」に頼るだけの経営では、カジノの業績は、開業5~6年もすれば確実に右肩下がりとなる。

 同じく前で説明したように、おそらく日本在の「ハイローラー」たちは、国税との関係で、日本にあるハウスで、太い博奕(ばくち)を打つことはなかろう。これはどこの国のカジノでも同じ事情だ。「ハイローラー」待遇を受けたいなら、国外のカジノに足を運ぶ。

 そんな見通しのカジノ経営に、LVS(ラスヴェガス・サンズ社)のアデルソン会長が言っていたように、一件につき1兆円の投資をするものだろうか?

 わたしは、無条件にはできないと思う。

(1)「グラインド・プレイヤー」たちが、カジノ賭博の依存症に陥るようなシステムを積極的に構築する。

 これなら、「グラインド・プレイヤー」たちの遊び用の可処分資金が尽きたとしても、彼ら彼女らは、金融資産を売ってでも賭博資金を確保しようとする。持ち家を売る。ついでだから、親の家を売ってしまう。会社のカネ、あるいは公金に手をつける。

(2)日本在の「ハイローラー」ではなくて、海外から大口の打ち手たちが来てくれるような制度をつくる。

 この二条件のどちらか、あるいは双方を満たさなければ、事業者による1兆円規模の投資は難しいのではなかろうか。

 ただし(1)は、公式的にはどうやっても認められない。

 IR法制化の前提基礎条件は、そうでなくとも「ギャンブル依存症」成人人口4.8%(2014年厚労省発表)というぶっちぎり世界一の日本で、依存症をこれ以上増やさないことなのである。(2017年になって同じ厚労省が2.7%というずっと控えめな数字を発表している。政治的事情があったのだろうが、ご苦労なことだ)

 すると、カジノ事業者たちが望みを託すのは(2)の、海外の「ハイローラー」たちが日本のカジノを頻繁に訪れてくれる制度の構築、およびその保証、という部分になろう。

 これまで何回も説明したが、そもそもアジア太平洋地域にある大手カジノ事業者たちが経営するメガ・カジノの収益の大半は、プレミアム・フロアとジャンケット・ルームからくる。

 マカオのそれなら、収益の80%近くがこの両者からきたこともあった。

 アジア太平洋地域にあるメガ・カジノの経営側は、グラインド・プレイヤーたちからの細々としたアガリだけに、頼るわけにはいかない。

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。