番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(31)

 たとえば警察では、団塊世代の大量退職時代を迎えた2006年~2015年の10年間で、約10万4400人におよぶ退職警察官の再就職をあっせんしなければならなかったとされる。

 日本の警察とは、許認可権と捜査権を同時に持ち、のみならず「司法権も有する」行政組織という世界でも珍しい機構だ。

 おそらく他の先進国では類を見ないほど、いち行政組織に権力が集中する仕組みとなっている。

 おまけに安倍政権の第三次改造内閣では、杉田和博が内閣人事局長に就いた。

 内閣人事局とは、約600人の府省庁高級官僚人事を一手に掌握する部署である。人事権を行使して、霞が関の諸省庁を牛耳ることができる。そのトップに、公安畑をずっとあるいてきた警察OBを据えた。

 そこまで集中した権力を与えられているのだから、もう怖いものなどない。

 警察がその気になれば、なんでもできる。

 それゆえ、裁判所が発令した「準強姦罪」の逮捕状を、警察官僚が勝手に握りつぶしたりする。それのみか、「安倍首相お抱えジャーナリスト」・山口敬之の逮捕揉み消しを指揮した中村格・警視庁刑事部長は今月(8月)10日付の人事異動で、めでたく警察庁長官官房総括審議官にご栄転あそばされた。

 日本の統治システムを俯瞰してみれば、言っても詮無いことなのかもしれないが、それでも言ってしまう。

 日本は、自身を法治国家と思っているのか?

 2011年、パチンコ・ホールを約200店舗もつ大手チェーンの経営者が、クスリ関連(『覚せい剤取締法』違反容疑)で逮捕された。

 どうなることか、と業界関係者は息を詰めて見守ったそうだ。

 ところが、その会社の経営には、これといった影響が見受けられない。

 その代りその会社には、約50名の退職警察官が再就職先として送り込まれたそうである。

 パチンコ業界のみならず、「総会屋対策」として、多くの大企業にも警察天下りが送り込まれている。

 その業態でにせよ法規的(例えば『労働基準法』)でにせよ、グレイな部分とかかわることが多かろう中小の企業にも、退職警察官が大量に押し付けられる。

 もう日本の「市場経済」とやらは、公務員および退職公務員たちの網の目で絡み取られている状態だ。

 いやいやそれのみか、公的年金を運用する年金積立金運用独立行政法人(GPIF)と日銀を合わせた公的マネーが、東証一部上場企業の25%以上の企業の実質的な筆頭株主となっている。

 日銀がどこどこカネをつぎ込む株式市場は、「官製相場」と化し、自由市場がもう機能しなくなった。

 以上は、反共産主義・反社会主義を標榜しているはずの資本主義国家が、国策としてやっているのである。

 そういうがんじがらめの環境に、資本主義のエッセンスを集中し濃縮したようなカジノ産業が、初めて認可される。

 許認可権と捜査権を同時にもつ日本の警察は、どうやって新規カジノ産業を掌中に収めていくのか? 

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。