インバウンドのための日本紹介(5)――神道と仏教を併存している日本人
【縄文時代や日本人の宗教観をどう説明するか――『英語対訳で学ぶ日本』は必携の書(4)】で簡単に説明しているが、改めて前掲書『英語対訳で学ぶ日本』から該当ページの画像を冒頭に掲載し、そのテキストを以下に紹介する。
【日本文】005=宗教
日本人は古くから「自然」を信仰し、祖先の霊を祀(まつ)る神道を大切にしてきた。狩猟・採集の時代から、食物を育はぐくむ山や海、太陽や水などの自然を「神」として、畏(おそれ)と感謝の念を抱いてきた。のちに仏教が伝わると、その教えを融合させて、お盆や春・秋に祖先を祭るようになっていった。
さらに仏教以外にもキリスト教をはじめとして様々な宗教が伝来したが、それらを一方的に退しりぞけるのではなく、日本の風土に適合させて、文化として取り入れていった。
たとえば、現代でも、年末年始に「クリスマス」と「除夜(じょや)の鐘」「神社への初詣」という異なる宗教文化を体験することに、日本人は違和感を持たない。日本人は、ありとあらゆるもののはたらきの中に「神」を感じてきた。日本人の宗教的な寛容性はこうした感性から育まれてきた。
【英訳文】005=Religion
Japanese have always worshipped ① “shizen” (the Japanese conception of nature) and valued Shinto, a religion of rituals ② for departed ③ ancestors ④ . During the hunting-and-gathering period, Japanese thought of mountains, the sea, the sun, water, and other natural elements ⑤ as “kami”, or gods, which brought forth food for people. These kami inspired both gratitude⑥ and awe ⑦ . When Buddhism later came to Japan, it incorporated Shinto beliefs by reverencing ⑧ the dead during the O-Bon summer festival, as well as in spring
and autumn.
Many other religions ⑨ , such as Christianity, have also been introduced to Japan. They are never rejected outright ⑩ , but instead are adopted ⑪ into Japanese culture and changed to fit Japanese ways and customs.
So, even today, around new year, Japanese take part in “Christmas (Christianity)”, “the ringing of temple bells” (Buddhism), and “New Year’s Day visits to Shinto shrines”, all without a sense of conflict among the various faiths. Japanese people feel the presence⑫ of the “kami” in all things. This feeling nurtures ⑬Japanese people’s religious tolerance ⑭ .
【英単語解説】
① worshipped (worship ワーシプの過去分詞:崇拝する) ②rituals (ritualゥリチュアルの複数形:儀式)③ departed (ディパーティド:なくなった)④ ancestors (ancestor アンセスタの複数形:祖先)⑤ elements (element エリメントの複数形:要素)⑥ gratitude (グラティトゥード:感謝の気持ち)⑦ awe (オー:畏れ)⑧ reverencing(reverence ゥレヴァレンスの~ ing 形:畏敬する) ⑨ religions(religionゥリリヂョンの複数形:宗教)⑩ outright (アウトライト:完全に)⑪ adopted (adopt アドプトの過去分詞:採用する)⑫ presence(プレズンス:存在)⑬ nurtures (nurture ナーチャの三人称単数現在:育てる)⑭ tolerance (トラランス:寛容)
外国人が神道を理解すると、次に疑問に思うのが仏教との併存である。一神教を信じる多くの欧米人にとって、神道と仏教を併存している日本人の宗教観の不思議さに目が行く。
この点については、以前に本ニュースサイトの神道と仏教の併存は日本の伝統文化
日本への仏教の伝来は6世紀半ば、その後、聖徳太子らによって仏教が奨励され、以来、1000年以上にわたり神道と仏教の併存は日本の伝統文化として人々に定着したといえる。 外国人への一般的な説明としては、以上で十分であろう。より専門的に自らの関心を深めていく場合には、以下の視点も考慮に入れると良いかもしれない。 近代になり明治新政府によって神仏習合をやめ神道と仏教との区別を明確にしようとする神仏分離の宗教政策が打ち出され、その後、仏像の破壊などを行う廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)を招いたのは、日本の伝統文化を否定する動きであった。 その背景には、江戸時代にキリスト教の脅威にさらされた幕府がその対抗措置として仏教を厚く保護したため仏教界が隆盛したが、それは同時に僧侶たちの堕落をもたらした。江戸時代の後期になり国学が興隆すると、神道に注目が集まり、仏教が目の敵にされたという側面を持つ。 しかし、長い年月で培われた神仏習合を根底から崩すことはできず、廃仏毀釈の動きは一部で激しい地域もあったが、2,3年ほどで終息した。そして、戦後になり国家神道の動きは否定され、日本人の宗教観は、ある意味、古来の伝統に戻ったと言えるのではないか。 いずれにせよ、本書『英語対訳で学ぶ日本』は、日本の通史をコンパクトに理解し、それを外国人に説明する際に役に立つ書籍だ。 読者の反応も、このニュースサイトの【『英語対訳で学ぶ日本』が面白い!――反響続々】の記事で紹介されているように好評である。 本書を手に取りご活用いただければ幸いである。(了) (文責=育鵬社編集部M)
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