続・牛丼チェーンのおふたりさま――連続投資小説「おかねのかみさま」

みなさまこんにゃちは大川です。

連続投資小説『おかねのかみさま』26回めです。

今回の原稿は六本木「SLOW PLAY」で書いてません。

※⇒前回「2分50秒」

〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
美熟女(熟) 銀座の高級クラブ「サーティンスフロア」のママ。

〈第26回 あはーん〉
「あの…」

「…なんだ」

「ずいぶんお料理にお詳しい方とお見受けしましたが…、失礼ですが、お仕事はなにを…」

「コールセンターだ」

「こーるせんたー?」

「テレアポだよ。マンションの営業。1000人に電話して、馬鹿が3人ひっかかる。そいつらに会いに行って安心させて、印鑑を押させるお仕事だ」

「はぁ…」

「なんだよ」

「でも、それだとお料理に詳しい必要がないような…」

「俺は2年前まで、出版社に勤めていた」

「出版社…」

「そうだ。いわゆる大作家さまたちのゴキゲンとりだ。あいつら締め切りなんかひとつも守らねぇくせに、旨いもんだけやたら食いたがる。そういうとき、あいつらを唸らせる店を見つけてきてカウンターの前までお連れして、嫌味にならない程度にご接待するのが俺だった」

「なるほど…」

「ま、いまとなってはお前みたいな意識高い系に説教くれるくらいしか出来ねぇがな」

「…」

「…」

「あの…」
「なんだよ」

「もうひとつだけいいですか?」
「…なんだ」

「もし、もしですよ、寿命を少しだけ売ってお金にできるとしたら、師匠はどうしますか」

「金額によるが…売るな」

「!!!」

「俺には田舎に妹がいる。妹は今でも俺が出版社の花形編集者だと思ってる。何に使うかは決めてないが、俺はあいつが幸せになるんなら、そのために俺の命を全部売って、この世界からも逃げ出したい。だから、一石二鳥だな」

「妹さん…」

「…」

「あの…」
「なんだ」

「おかねがあれば、妹さんは幸せになるんでしょうか…」

「巻き込まれねぇんだよ」

「へ?」

「不幸だとか幸せだとかは人それぞれだが、カネさえあれば馬鹿や貧乏人に巻き込まれにくくなる。それが俺の結論だ」

「巻き込まれ…にくくなる…」

「おい。4分40秒たってるぞ。くえ」

「あ!!!は、はい!!!」

ハフハフハフ、ハフ、ハフ、ハフハフ、ハフハフハフハフ、ハフ、ハフ
グビグビ
ハフハフハフ、ハフ、ハフ、ハフハフ、ハフハフハフハフ、ハフ、ハフハフフ

「おい」

「は、はひ」

「そいつの特徴は、鍋の中だけじゃねぇ。その鍋の下にある固形燃料が最後まで熱を保つんだ。しかしな、だからこそ気をつけなくてはいけないこともある」

「はい…」

「味が馴染まねぇんだ」

「な、なじまない?」

「そうだ。馴染むと染みこむは違う。特にすき焼きのタレの場合、高温のままだと砂糖と醤油が馴染まねぇんだよ。それぞれが高温で活発な状態で主張を続けてて、残念なことにコメに絡めるためにはちょっと味が粗すぎるんだ」

「あら…すぎる…」

「そうだ」

「…師匠」

「師匠じゃねぇ」

「いや、あの、なんとお呼びしたらいいのか」

「…村田だ」

「ムラタさん…」

「…」

「あの…」

「なんだ…」

「もしよろしければ…なんですが…、その、LINEの交換とかしていただくことってできますでしょうか…」

「…」

「だめですか…?」

「なんのためだ?」

「いや、あの、なんのためというよりも、いろいろ、教わりたいんです。僕、いまは居酒屋で毎日働いてるタダの大学生なんですが、ついこないだまでカミサマと死神さんが一日中くっついて歩いてて、シニガミさんなんかウチに住み着いちゃったりして、一緒に競馬場とかカジノとか行ってたんです。カミサマはこれくらいの小さな機械をもってて、その機械を僕のミゾオチのところに当てるといくらか寿命が削られるんですが、その代わりにオカネがもらえるんです。そのオカネで僕は株買ったりしてたんですが、株なんて買ったことないから午前中だけで全部なくなっちゃいまして、気づいたら、僕の部屋にはシニガミさんだけが残ってたんです。『ウフ』とか言って。でもね、シニガミさんは意外といい人っていうかいい死神で、ぼくと一緒に働くって言ってくれたり、2日くらいはがんばろうって言ってくれてたりしたんですけど、結局『ツマンナイ』って言った翌日に、すごくインパクトのある置き手紙を残して出て行ってしまったんです。ぼく、どうしたらいいですか?」

「おい」

「はい…」

「お前、楽しくなっちゃう薬とか吸い込んでないか?」

「ですよねぇ…」

「…」

「あの、僕、健太って言います。むちゃくちゃなこと一気にしゃべっちゃいましたけどご覧のとおりどこにでもいる大学生です。村田さんがよければ、ぜひ、これからもいろいろ人生について教えていただけたらうれしいです」

「あのな」

「はい」

「人生について教えていただけたら嬉しいのは、誰でもそうなんだよ」

「はい」

「お前はそれを俺に告げるとき、何か俺のメリットについて考えたか?」

「え、いや、えと」
「考えてないよな」

「…はい…ごめんなさい…、でも、僕、お金もないし、女性じゃないからあはーんとかうふーんとかもできないし、正直僕にできることなんてなんにもないです」

「あるんだよ」

「へ?」

「あるんだけど、まだそれに気づいてないだけだ。だけどそれに気づくためにはお前は世界を広げたほうがいい」

「世界…」

「お前の世界は狭い。大学と、居酒屋と、吉野家と、お前の四畳半だ。俺も学生時代はそうだった。パッとしない大学の、パッとしない授業を受けて、毎日バイトに励んでいたらこうなった。要するに、俺は大事な時期に世界が狭かったんだ。それに気づいたのはつい最近だけどな」

「…」
「…」

「あの…」
「なんだ…」

「学校って…どちらですか?」

「言いたくない」

「!!!そこまで言っといて!!!気になるじゃないですか!」

「だから、お前が気になるかどうかは相手には関係ねぇんだよ。聞いたらなんでも教えてもらえるって考えだからなんでもかんでも騙されるんだ。馬鹿」

「でもぉ…大学くらいぃ、いいじゃないですかぁ…」

「……ノウケイ大だ」

「え!!!ノウケイ!!?ノウサギ経済大学ですか!?え!!!先輩!?」

「!?」

「師匠!もう師匠は師匠です!先輩なんですから!よろしくおねがいします!!!」

次号へつづく

【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。

Twitterアカウント
https://twitter.com/daiokawa

2011年創刊メルマガ《頻繁》
http://www.mag2.com/m/0001289496.html

「大井戸塾」
http://hilltop.academy/
井戸実氏とともに運営している起業塾

〈イラスト/松原ひろみ〉
20_nikkan

逆境エブリデイ

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