5060億円市場を3社が競う牛丼チェーン。“松屋外交”で各国大使も絶賛する松屋の強さの秘密
牛丼チェーン「松屋」(松屋フーズ)の意外な活動が、外交を円滑化させるきっかけになっている。東欧ジョージアの「シュクメルリ」などの名物料理を販売し、食べたことのなかった日本人から好評を得て、SNSでは欧州各国の大使たちから自国の料理も作ってとリクエストが殺到しているそうだ。
特にカレーは創業者のこだわりが強く、本腰を入れていたため絶対的な自信を持っていたようだ。確かに松屋のカレーは美味しく、開始時は価格も290円と安かった。カレー好きが多い日本では連日通うお客さんもいたようである。また、松屋は豊富な定食が他店との差別化になっていた。
通常、メニューが広がり品揃えが増えると食材のムダや管理コストが上り、原価率が高騰しやすいが、松屋は原価率33.6%と安定しており、商品管理と在庫管理が徹底されているようである。
【松屋フーズホールディングスの業績(2019年3月期~2023年3月期)】
売上高:981億5800万円→1065億1100万円→944億1000万円→944億7200万円→1065億9800万円
売上総利益(売上高比率):659億3100万円(67.2%)→713億9200万円(67.0%)→626億6700万円(66.4%)→615億1200万円(65.1%)707億3500万円(66.4%)
営業利益(営業利益率):38億8400万円(4.0%)→50億7900万円(4.8%)→▲16億8300万円(▲1.8%)→▲42億円(▲4.4%)→14億6800万円(1.4%)
経常利益(売上高比率):41億8200万円(4.3%)→54億3800万円(5.1%)→3300万円(▲99.4%)→63億9800万円(6.8%)→39億1400万円(3.7%)
当期純利益(売上高比率)21億9700万円(2.2%)→26億400万円(2.4%)→▲23億7600万円(▲2.5%)→11億500万円(1.2%)12億5500万円(1.2%)
FL比率:67.0%→66.7%→68.3%→68.6%→65.8%
松屋の業績を時系列でみると、コロナ禍で2期連続(2021年3月期、2022年3月期)の赤字だったが、コロナが収束しつつあった前年(2023年3月期)は低いながらも1.4%と黒字に転換している。
費用構造を見ると、原価率は33.6%と標準並みだが、外食の重要指標であるFL比率(売上原価と人件費の売上高に占める割合で60%以下が最適)は65.8%と標準を上回っており、ここに若干の問題があると推察する。
定食メニューがよく出るとオペレーションが煩雑になり、原価費用だけでなく調理作業も複雑になり、労務コストの負担も大きくなる。メニューの入れ替えが活発な松屋の商品政策は、顧客は満足しても店の負担は大きいのが実情である。商品が多品種化している中では、効果と効率の観点から、より原価率の安定と作業の効率化による人件費の削減を念頭に全体最適化を追求したほうがいいだろう。
【松屋フーズホールディングスの最新業績(2024年3月期決算)】
売上:1276億1100万円
営業利益:53億2200万円
営業利益率:4.2%
2024年3月期決算を見ると、売上は、既存店売上が前年比114.4%と、前年を上回ったことに加え、前年度以降の新規出店等による売上増加分が寄与したことにより、前年同期比19.7%増の1276億1100万円となった。原価率は前年の33.6%から34.2%と上昇している。
そもそも、 松屋は牛丼(牛めし)を主力商品とし吉野家やすき家と牛丼御三家を形成しながらも、カレーや豊富な定食メニューなどで吉野家とすき家との違いをアピールしていた。市場規模5060億円の牛丼チェーンにおいて吉野家・すき家・松屋の牛丼御三家がシェア88%と寡占化状態(富士経済外食マーケティング便覧2023)。その中で独自のポジションを築く松屋フーズの業績を分析した。
コロナで赤字も黒字転換した松屋フーズ
顧客は満足しても店の負担は大きい定食メニュー
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
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