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もうひとつの被災地『雪が解けた栄村』

 3月12日深夜午前3時59分、M6.7という大地震に襲われたにもかかわらず、東北地方の地震と津波の被害の陰に隠れ、メディアから“黙殺”された長野県栄村。その惨状については、小誌4月12日号「今週の顔」で「マスコミが報じなかった もう一つの『東日本大震災』」として報じました。  その後、現地で活動するNPO法人や長野県からの政府の働きかけなどもあって、東日本大震災による被災地と同等の復興支援制度が適用。村も復興の道へと歩みだしました。  その栄村に4月下旬、エコノミストの飯田泰之さん、評論家の荻上チキさんと訪れました。その様子は両氏がそれぞれのブログで速報、小誌5月17日号「週刊チキーーダ!」でリポートしましたが、ここでは誌面の都合で掲載できなかったお話をご紹介します。 ■栄村とは?  まずは、基本情報。栄村は長野県の北部、新潟県との県境に位置します。東京からは車で3時間程度。東西19.1km 南北33.7km、周囲106.0km 、面積271.51平方㎞。だいたい千葉市と同じくらいの広さでしょうか。その92.8%が山林で、山の辺に31の集落が点在しています。人口は約2300人とのことです。  主たる産業は農業ですが、稼ぐ・儲けるための手段というよりも、暮らしの中に当たり前に農業があるといった感じ。いわば、日本の典型的な中山間地域です。そして、冬場は3mもの雪に閉ざされる日本有数の豪雪地でもあります。  私たちが訪れたのは、東京では桜の盛りも過ぎた4月23日。雪解け水が轟音を響かせ、川を流れていきます。田には雪が残るものの、畦にはふきのとうや土筆がにょきにょきと顔を出していました。待ち遠しい春が、村にも訪れてはいましたが、それは、雪で覆われていた被害の実態が現実として顕わになるということでもありました。

クラックが走る田んぼの畦

 ■本当の被害がわかるには時間がかかる  案内をしてくださったNPO法人栄村ネットワークの方によると、なんでも、村全体が地震の被害を受けているというわけではなく、3~4集落に被害が集中しているとのこと。活断層上に沿って被害規模が明らかに違っているのを目の当たりにし、地震のメカニズムを感じた次第です。  取材時、田んぼには雪が残っていましたが、大きなクラック(亀裂)や雪面のゆがみは見てとれました。クラックを放置したまま、田植えの作業に入っても、水持ちは悪くなり、ゆがんだ状態で田に水をひいてしまうと水は均等に張ることはできず、畦を壊してしまう可能性もあるとか。  5月に入り、例年なら田起こし、代掻きという、むらの人にとっては待ち望んだ作業に入る時期です。しかし、うかつに田に水を引いてしまえば、被害は拡大してしまいます。また、小規模な田の被害をどこまで公的に補償してもらえるのかといった課題が生じているようです。  雪のために畑作ができない冬場、むらの人々は出稼ぎに出るしかなかったといます。そこで、なにか施設型の農業をと始められたのが畜産とキノコ栽培。キノコ栽培施設は、地震後の停電のために、栽培していたキノコすべてがダメになってしまったそうです。 牛舎は、豪雪に耐える強度があったため全壊は免れたものの、この状態からの再建は難いとのこと。やはり、冬場の雪に耐えるために丈夫に作る必要があるので、建設費用はより大きな負担となります。

地震のとき牛舎では200頭を飼育。2頭が被害にあった

「今年はまず更地にしてね、平行して事業再開の計画を立てて、来年の春、雪解けとともに着工ができればいいけどね。ここは早ければ、10月には雪が降り始めるから。何をするにしても冬場は外して考えないといけないからね」(畜産農家の方)  冬場、雪に閉ざされる栄村には、機動的に動けるのは半年。時間はないのです。取材でお話を聞くまで知らなかったのですが、山手線などの首都圏のJRの電車は、新潟県十日町にある「宮中ダム」で取水され、JR東日本信濃河発電所で発電された電気によって動いているそうです。また、同じ信濃川系ダム「西大滝ダム」は震災後、首都圏の電力不足を補うために取水量を増加させています。信濃川をたたえる豊かな水は、栄村などこの地域に降った雪解け水です。  NPO法人栄村ネットワークの方は、こうおっしゃっていました。 「山村に人が住んで、山に人の手が入っているから、山が荒れず、雪解け水が林を削ることなく川へと注ぐ。栄村の農作物が首都圏の暮らしに役割を果たしているのかと言ったら、微々たるものでしょう。産業的に利用できないから人がいなくていいという人もいるけれど、こうした山間地で人が生活を営んでいるから首都圏の暮らしが成り立っている」 NPO法人「栄村復興への歩み」 http://sakaemura-net.jugem.jp/ ■栄村のためにできること

全壊してしまった青倉地区の公民館

村の生活に寄り合い所は欠かせない。仮設公民館は完成したものの、恒久的な施設の再建は復興のシンボル。その再建基金を募集している。「青倉地区公民館再建基金」 北信州みゆき農業協同組合 栄出張所(普)0006465 青倉公民館基金 広瀬明彦

美味しい!と評判の栄村のトマトジュース

震災のために缶がへこんでしまった、このトマトジュースを義捐金込み1本200円で販売。これも公民館の再建基金へ回されます 飯田泰之さんブログ 「こら!たまには研究しろ!!」http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/ 荻上チキさんブログ 「荻上式BLOG」http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/ 取材・文/鈴木靖子 撮影/落合星文
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