バンドと歯科医師 “二足のワラジ”生活の葛藤――プログレバンド「KENSO」清水義央インタビュー

清水義央氏

KENSOリーダー清水義央氏

KENSO(ケンソー)――コアな音楽ファンから長らく支持されてきた、日本屈指のプログレッシブ・ロックバンドが、この7月に8年ぶりのニューアルバムをリリースした。結成以来40年間、このバンドを率いてきたリーダーでありギタリストの清水義央氏は、実は現役の歯科医師という横顔も持つ。ミュージシャンと歯科医師というユニークな“二足のワラジ”生活を続けてきた清水氏に、40周年を迎えたKENSOや自身の活動を振り返ってもらいつつ、「何かを両立するための極意」という視点から話を聞いた。

前編となる今回は、歯科医とバンド活動を両立と、それにまつわる葛藤について語ってもらった。

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――KENSO、今年で結成40周年ですか。

清水:ええ。僕は今年で57歳なんですが、結成したのは17歳、高校2年の時なので。高校の同級生や後輩と組んだバンドで、ラジオのバンドコンテストに応募することになったのですが「バンド名、どうしようか」という話になり、とりあえず学校名でいいか、と付けた名前がKENSOだったんです。僕の母校、神奈川県立相模原高等学校の略称「県相」から採った。まさか40年もその名前を使うことになるとは、当時まったく考えてなかったけど。

――そのラジオコンテストでグランプリを獲ったそうですね。

清水:はい。そこから勘違いが始まります(笑)。「俺、もしかしたら音楽の才能あるかも」「このままミュージシャンとして生きていけるんじゃないか」と、思春期独特の妄想力で突き進んでしまったというか。

 ただ一方で、父親が非常に厳格な人だったので、まずはきちんと勉強をして良い成績を残さないと、音楽をやらせてもらえなかったんです。さらに、将来は医学部か歯学部に進むことを厳命されていました。そういう親への反発心などもあって、ロックの攻撃性や開放感に傾倒していったところもある反面、好きな音楽を聞いてギターを弾き続けるには、親の言うことを守るしかない……みたいな葛藤がいつも付いてまわっていたんですよね。

――音楽と学業(仕事)の両立、ということでは、いまと変わらない。

清水:そのとおりです。「両立」「二足のワラジ」「二刀流」なんて切り口で僕の活動に注目してくださる機会は少なくないのですが、正直、まったく褒められたものじゃないと自分では思ってます。

 初期衝動に忠実に従うのであれば、それこそ学校をドロップアウトして、音楽一本の生活を選ぶ……という道もあったんだろうけど、そこまでの覚悟はなかった。現実的に考えれば、音楽で食えないのはわかっていたから。とくに僕の音楽はプログレッシブ・ロック。メジャー感なんてゼロでしょ? 近年は音楽の嗜好も細分化したし、ロック好きの年齢層も幅広くなったから、プログレ好きが一定程度は存在してくれている手応えもあります。ただ、僕が歯科大を卒業して駆け出しの歯科医になったころなんて、世間はニューウェーブとかテクノポップが全盛で、プログレは衰退しつつあるジャンルだったんです。「え、まだプログレなんてやってるの?」なんてバカにされたくらいだから。

――それでも、歯科医の仕事と両立しながら、いままでバンドを続けてきました。

清水:そうですね。でも、40年の大半は常に葛藤を抱えながら続けてきた感じです。歯科医業も音楽活動も、どちらも中途半端な気がして。

 歯科大に入ったころ「なんでこんなところに自分はいるんだろう」と思いながらも、音楽を続けるには大学の勉強をちゃんとこなして、留年せずにキチンと卒業するしかないから、けっこう真剣に取り組んだんです。そのおかげか、なぜか次席で卒業してしまったんですけどね(笑)。

 歯科医になってからも、仕事には真面目に臨んできましたし、勉強も継続して、レベルアップに取り組んできたという自負もある。バンドだって、気がつけば40年も続けてこられた。その結果だけ見れば、僕は恵まれているんだと思います。でも、いつもどこか中途半端というか、音楽にも歯科医の仕事にも真剣さが足りないんじゃないか……みたいな迷いは一貫してありましたね。

――決して順風満帆な“二足のワラジ”生活ではなかった、と。

清水:はい。傍目には、器用にこなしているように見えたり、楽しそうにやっているように見えるかもしれないけど、水面下ではずっと足をバタバタさせてきた。それに、僕はいまでも、その道だけでずっとやってきて、何かを極めたような人に対してコンプレックスを抱いたりします。心臓外科だけで何十年、みたいな医師がテレビで紹介されていたりすると「やっぱ一本の道に専心してきた人はスゲェな」と、申し訳ないような気持ちになりますから(苦笑)。

 だから、「好きなことを続けるにはどうしたらいいか?」とか「2つのことを両立するにはどうしたらいいか?」なんてアドバイスを求められても、実は大したことは言えないんですよ。とにかく“やらなければならないこと”はちゃんとやって、あとはもうあがくしかない……みたいな助言しかできなくて。

――いまでも悩みは尽きない感じですか?

清水:まあ、さすがに50代も後半になると、だいぶ落ち着いてきましたけどね。40歳になるころから、歯科と音楽が重なり合い、どちらにも影響しながら、いまの自分を形作っていることに気づけたので。これは叔父にアドバイスされた言葉なのですが「“二足のワラジ”に申し訳なさを感じるより、2つのものを統合することを目標にして、愚直にそれぞれの道を進んでいけば、それはキミだけにしか歩けない道になるのでは」と言われて、楽になったところもある。

 歯科と音楽が「統合」できているかは自分でもわからないけど、たとえば僕は、西洋医学を学んできた視点で音楽を聞いたり、歌詞を読んだりしている。それはたぶん、僕なりの視点であり、切り口みたいなものになるのかなと考えています。

――2つのことを真剣に続けることでしか見えてこないものがあるはず、と。

清水:そう信じています。音楽がどのように歯科に活かされているか、という観点でいうと、患者さんの多様性に気づけたこともそのひとつ。僕が趣味のレベルで、アマチュアバンドでたまにギターを弾くだけの歯科医だったら、おそらくいまの自分の姿にはなっていなかったはずです。

 KENSOにはなぜか、一流のプレイヤーが次々と加入してくれるんですよね。スタジオ録音やライブセッションに引く手あまただったり、さまざまなバンドに参加していたり、他のアーティストに楽曲を提供していたりするような、百戦錬磨の名手たちがKENSOには揃っている。

 厳しいプロの現場を渡り歩いてきたミュージシャンは本当に個性的な人ばかりで、驚くような価値観を持っていたりします。そうした多様な価値観に触れて、刺激をもらうなんて経験は、歯科医をしているだけでは絶対に無理。患者さんにもいろいろな方がいて、それぞれに痛みや悩みを抱えているわけですが、患者さんたちへの接し方とか、治療に取り組む姿勢など、歯科医としての僕の姿に音楽活動が大きく影響していることは間違いありません。

――では、歯科医の仕事が音楽に影響しているところもあるわけですね。

清水:もちろんです。僕は一般的な歯科の診療に加えて、歯科心身症の治療にも取り組んでいます。簡単にいってしまうと、心身症的な症状が歯科領域に現れてしまうことを言うのですが、この領域に対応している歯科医はまだまだ非常に少ない状況なんです。

 僕が精神医学領域に強い関心を持ち、自分の専門のひとつにしたことは、確実に音楽の影響。というのも、プログレでは精神世界をテーマにしたような楽曲が非常に多いから。たとえばキング・クリムゾンやピンク・フロイド、キャメルといったバンドの歌詞や楽曲の世界観を深く理解するには、心理学や精神医学の知識がどうしても必要になってくる。そんなこともあって、僕は10代のころから、フロイトやユングなどを入り口に心理学や精神医学の世界に触れてきました。振り返ってみれば、歯科と音楽はシンクロしていたんですね。

 歯科心身医学という、自分なりの武器が見えてきたことで、さらに歯科医の仕事に興味が持てるようになったし、よりやりがいを感じられるようになったんです。

 あくまでも結果論ですが、迷いながらも“二足のワラジ”生活を続けてきたことには、それなりに意味があったかなと思っています。

KENSO

KENSOのメンバー。左から三枝俊治氏(ベース)、光田健一氏(キーボード)、清水義央氏(ギター)、小森啓資氏(ドラムス)、小口健一氏(キーボード)。

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【清水義央】
しみず・よしひさ 1957年、神奈川県生まれ。医学博士。1974年、高校在学中にプログレッシブ・ロックバンドKENSOを結成。以来、同バンドのリーダー、メインコンポーザー、ギタリストとして活躍。KENSOは内外のプログレファンに高く評価されており、海外でのライブ経験も持つ。ミュージシャンとして息の長い活動を続ける一方、現役の歯科医として診療に従事。横浜市にある自身の歯科医院で院長を務めている。

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●2014年8月17日(日)、新作リリース&結成40周年記念ライブ開催!
川崎 CLUB CITTA’にて。16:30開場、17:30開演。
詳しくはこちら http://www1.u-netsurf.ne.jp/~kenso/live/live201408.html

取材・文/漆原直行

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