武田真治、男こそつねに「筋肉痛」を味わう必要がある
俳優・サックスプレーヤーとして活躍する武田真治さんが先ごろ上梓した『優雅な肉体が最高の復讐である。』(幻冬舎)は、ユニークな一冊だ。同書の冒頭に並ぶ写真では、鋭利なまでに鍛え上げられた武田さんの肉体が披露されており、一見、よくある肉体自慢と過剰なストイックさに溢れたトレーニング本のように映るが、さにあらず。自身の経験を踏まえた率直な語り口で、武田さん独自のトレーニング観が紹介される一方、とくに30~40代の男性であれば共感せずにはいられない、肉体の変化や精神の揺れ動き、自意識と現実のズレ、仕事やプライベートでの葛藤などについても掘り下げて語られている。読み方次第では、自己啓発的な示唆を得ることもできるだろう。
そんな武田さんのインタビューを、全3回に渡って紹介していこう。
⇒【vol.1】「食生活ガン無視でも肉体を維持できるワケ」https://nikkan-spa.jp/730130
――筋肉痛は“男のたしなみ”なんですか!?
武田:はい。人間って重力の中で生きているから、常にどこかに負荷がかかっていて然りなんですよ。で、神様がそれを何かの形で僕らに教えようとしているんだと、僕は思っているんです。
……みたいな話をすると、人によってはいきなりドン引きしたり、まったく理解できないみたいな顔をされてしまうんですけどね(苦笑)。僕は別に特定の宗教を信仰しているわけじゃないですけど、人間という生き物をつくったクリエイターみたいな存在を意識してしまうことがよくあるんです。まあ、単純に、自分の中でそう考えると「何となくしっくりくるかも」程度のことで、「宗教うんぬん」というややこしい話をしたいわけじゃない。
それで神様は、女性には月に一回のものだったり、妊娠や出産だったり、何らかの「人としての痛み」みたいなものをちゃんと与えているのに、男性には何も与えていないんですよね。だから、男は何らかの痛みを自分でチョイスする必要があるんじゃないかなって。
――それが、トレーニングの後の筋肉痛だったりすると。
武田:ええ。ひとつの選択肢として、筋肉痛で済むなら、それでいいやと。胃が痛いとか、腸が痛いとか、臓器に関わる病的な痛みよりは、ずっといいなって。筋肉痛程度で“人としてのノルマ”を免除されるなら、多少キツくてもいいじゃないか……というのが僕の考え方です。与えられた肉体にはもともと時間や機能に制限があって、無限に浪費したり、酷使したりできるわけじゃない。神様は、それを「痛み」という形で思い知らせてくれているような気がして。遅かれ早かれ、何かしらの形で「痛み」を負わなきゃいけないなら、自分で選択するほうがいいじゃないですか。すみません、ちょっと奇妙な話になってしまって。
――いや、わかる気もします。
武田:それに、幸運なことに僕には「上司」みたいな、面倒でストレスフルな存在っていないんですよね。目をかけてくれる「兄貴」みたいな方はたくさんいるんだけど。それで、そのまま生きていると、精神的な負荷ってまるでないんです。たぶん、肉体的な負荷を人よりもかけていることで、そういう精神的な負荷を免除されているのかなって。生きていることに、肉体的なトレーニング以外の負荷がまったくないんですよ。
もしかしたら、僕のまわりにもストレスの種はいろいろあるのかもしれません。でも、日々のトレーニングよりも苦しいことは、世の中にそれほど存在しないせいか、気づいていないだけなのかも。身体を鍛えているおかげで、何かキツそうなことがあっても「ちゃちゃっと、やっちゃいますか」と抵抗なく動いてしまいますから。
一般社会に生きていると、「いや~最近疲れやすいんですよねぇ」「この前、検査でこんな数値が出ちゃって。もうオッサンですから」なんて、あえて衰えを見せ合って、共感し合うみたいな風潮があるでしょ。それが挨拶みたいになっているシーンとか、たくさんありますよね。ただ、果たしてそれは「粋」なのかなと。
誰もが納得するくらいトレーニングで肉体に負荷をかけて、元気で無邪気に振る舞っている人がいてもいいじゃないか、なんて思うんです。たとえば、郷ひろみさんって見ていて気持ちいいじゃないですか。僕も、そうありたいなって。
――我慢しないで食べたいものを食べ、飲みたいものを飲み……という武田さんの姿勢もストレスの軽減に繋がっているように感じます。
武田:間違いなく、そうですね。食べ物や飲み物にいちいち気を使っていたら、それだけでストレスになるじゃないですか。何でもいいから食べたいもの食べて、動けなくなるまで運動するほうが余程ヘルシーというか、心にも身体にもガツンときますからね。
――ところで、武田さんは本の中で再三、自分が鍛えていることをまわりの人に喋ったり、その成果を周囲に見せびらかしたりしないほうがいい、といったことを語っています。
武田:想像してみてください。鍛えていることをいちいち自慢げに語ったり、肉体を見せびらかしたりする人がいて、それに毎回リアクションしなきゃいけない状況は、相当煩わしくないですか? 僕がいつもピチピチのタンクトップを着て、筋肉をアピールをしていたら、面倒くさいでしょ(笑)。僕は、周囲に気を使わせることが、本当にイヤなので。
――鍛えていることは自分だけの秘密にしておきましょう、と一貫して訴えていますね。
武田:僕が自分の身体を鍛えているのは、肉体の性能を上げたい、という一点だけなんです。「俺の身体を見てくれ」みたいなアピールはやっちゃいけないとすら思っている。まあ、この本を出したことで、ちょっとアピールしてしまっているのかもしれないけど。
その手のアピールを始めてしまうと、まわりからの感嘆の反応とか、ホメ言葉をを求めるようになってしまうものです。それがクセになると、ホメてもらえなければトレーニングを続けられなくなってしまう。毎日毎日、初対面の人に会うわけではないし、周囲からのホメ言葉なんて、次第になくなっていきます。モチベーションの源とか、やる気になる理由を自分の中ではなく、外に求めてしまうと、トレーニングなんて絶対に続けられないですよ。
ただ、いざというときに頼りになる夫であり、父でありたい……みたいな願望は、一方で持っています。結婚もしたことないし、子供もいませんが、家族が万が一、危機的状況に追い込まれたときに頼れる男でありたい。奥さんや子供をヒョイと抱えて、危機から全速力で逃げて、「さすがお父さんね」なんて嫁や子供から称賛されたい(笑)。外で自慢する気はないけど、家族には褒めてほしい。せっかくいつか結婚するなら、そういう家庭を築きたいですよね。
⇒【vol.3】『モテを目的にしたトレーニングは結果が出ないワケ』に続く https://nikkan-spa.jp/730251
【武田真治/たけだ・しんじ】
1972年、北海道生まれ。俳優、ミュージシャン。89年、第2回ジュノン スーパーボーイコンテストでグランプリを獲得。翌年、テレビドラマで俳優デビュー。以来、映画、ドラマ、舞台で俳優として活躍する一方、「めちゃ×2イケてるッ!」などバラエティにも出演。また、サックスプレイヤーとしても多彩な活動を繰り広げ、さまざまなミュージシャンと共演している。
<取材・文/漆原直行>
『優雅な肉体が最高の復讐である。』 「肉体は人生の名刺である」 |
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