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サッカー日本代表、ユニットとして完成しつつある香川と宇佐美の関係性

 サッカー日本代表は8日(木)、ロシアW杯2次予選第4戦でシリア代表と対戦し、3-0で勝利した。中立地であるオマーンのマスカットで行われたこの試合、前半は厳しい暑さやシリアのハードワークを前に思うようなプレーを披露できなかった日本だったが、後半に入り3点を連取。4試合を終え3勝1分で勝ち点を10とし、グループEの首位に立った。
サッカー日本代表、アウェイでシリアに完勝。ユニットとして完成しつつある、香川と宇佐美の関係性

写真はカンボジア戦。ドリブルで切り込む宇佐美貴史

◆久々に見せた日本らしさ  2次予選の山場ともいえる一戦。試合後、FW岡崎らが「立ち上がりは相手も良かった」と振り返ったように、前半はホームでの勝利を目指すシリア代表の抵抗を受けた。ボールが走らない長めの芝にも手を焼き、原口のパスミスからピンチを迎えるなど我慢の時間帯が続いたが、前半を何とか0-0で折り返す。  すると後半、久々によい時の日本らしさが戻ってきた。右FWで先発した本田圭佑がより中央に近い位置でボールに絡みリズムを作ると、後半10分、岡崎が相手DFをうまく誘いPKを獲得。これを本田が冷静に沈め先制した。徐々にシリアの運動量が落ちたことに加え、FW宇佐美らの投入でゲームの主導権を握った日本は、その後、香川の素晴らしい突破から岡崎、清武、本田と繋いだボールを宇佐美が決め、終わってみれば3-0と完勝。アウェイで充実の勝ち点3を得る結果となった。 ◆決定力不足以上に深刻だったアイディア不足  この試合の後半、久々に日本代表らしいコンビネーションが戻ってきた。香川や本田らがイメージを共有し、常に複数の選択肢を持ちながら、極力少ないタッチ数で相手DFラインを突破し、岡崎で仕留める。前回大会の予選やその間の強豪国との親善試合など、ザックジャパン時代に度々垣間見せていた、好調時の日本の形だ。これまでの3戦、なかでも特にホームでの2戦と違い、シリアがある程度前に出てきたことでスペースが生まれたのも要因の一つだが、ポジティブな変化と捉えてよいだろう。  ハリルホジッチ新体制になって臨んだこの2次予選。日本代表はこれまで思うようなゲームをすることができていなかった。特に先月行われた第2戦、ホームのカンボジア戦での攻撃の停滞ぶりは深刻なものだった。ボールを圧倒的に支配しながらも、そのパス回しは度々ノッキングを起こし、相手選手がペナルティエリア内で9人も待ち構えているような所にクロスを放り込むなど、淡白な攻撃が目立った。確かに前日の会見で指揮官は「サイドからのクロスボールを多用して崩す」と明言したが、当然ながら「頑なにクロスだけで崩せ」と要求したわけではなかったはずだ。チームとしての狙いを共有しつつも、相手の陣形や敵・味方双方のポジショニング、試合の流れなど、その時その時の状況によって各選手が自ら考えプレーを選択していくべきだが、この試合ではそういった創意工夫はほぼ見られなかった。香川が決定機を逸したことなどもあり、試合翌日の各紙には“決定力不足”の文字が並んだが、FW宇佐美が「ちょっとした余裕やアイディアが欠けていた」と語った通り、どちらかと言えばアイディア不足といえる試合だった。  このように、選手たちが監督の指示に従順であるあまり本来の良さを出し切れないまま試合を終えてしまうということは、以前から度々見られてきた日本代表の長期的な課題だ。もう2年も前のことになるが、豊田スタジアムでのブルガリア代表との親善試合に敗れたあとのミックスゾーンで、DF内田篤人がこんなことを語っていた。 「今日は監督の言うことを聞きすぎてた。日本人は決まりごとを忠実にこなす民族なのでね。真面目なのはよいことだけど、逆に真面目すぎるところがあると思うんですよね。海外なんかだと“こいつ本当に監督の話聞いてたのかな?”って奴たくさんいるし、けどそれでも点が入ればOKになっちゃう部分もあるから。(最低限の)約束事だけしっかりやって、あとは良い意味で自由にやれればもっと良くなっていくと思います」  実に内田らしい的確なコメントだが、カンボジア戦での日本代表にも通じる部分がかなりあるように思える。新体制下で居場所を確保するためにも、各選手が指揮官の要求に応えようとするのは当然のことだが、「言われたことをきっちりこなすが、言われたことしかしない」状況に陥っていたことは確かだ。その意味でも、前線の選手たちにイマジネーション溢れる崩しが戻ってきたのは大きな収穫といえよう。 ◆本大会に向け、期待感を抱かせる香川と宇佐美の関係性  その中でも特に際立った連携を見せているのが香川真司と宇佐美貴史のコンビだ。左サイドでボールを持った宇佐美が一度香川に預け、スピードに乗った状態で中に入ってリターンを受ける形はお互いの良さがうまく調和しており、昨夜のシリア戦でも大きな脅威となっていた。同じく香川と相性が良く、且つ守備面での貢献も期待できる原口元気が左FWのファーストチョイスとなりつつあるが、後半、相手の足が止まり始める時間帯での宇佐美投入は、すでにハリルジャパンの一つのパターンになりつつある。  また、後半29分に宇佐美が香川、山口、本田と連続のワンツーでゴール前に侵入した場面は、ハリル体制になって以降最も多くの選手が連動した崩しだった。3年後の本大会を見据えると、強豪国に対して個の力で劣る日本は、このような連動した攻撃を90分間の中でいかに増やしていけるかが鍵となってくる。相手が格下のシリアとあってはこうしたプレーが出て当然ともいえるが、2年前、オランダと2対2で引き分けた試合での本田のゴールや、3-1と完勝したベルギー戦での岡崎のゴールなど、3人以上が連動した攻撃は強豪国であっても防ぐのは簡単ではない。香川と宇佐美のような関係性をチームの中でいかに増やしていけるか。それが今後のハリルジャパンの行く末を左右する要素の一つであることは間違いない。  W杯に5大会連続で出場している日本代表にとって、2次予選はもはや突破して当たり前だ。キャプテン長谷部誠が「予選で楽な試合は一つも無いし油断はできませんが、本大会出場は当然最低限の目標なので」と語ったように、選手たちは予選を戦いながらも常に本大会を見据えている。’02年日韓大会と’10年南アフリカ大会でのベスト16を上回る結果を残すため、そして何より前回ブラジル大会の雪辱を果たすため、残された2年8ヶ月という時間は、決して長くはない。 <取材・文/福田 悠 撮影/難波 雄史>
フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、今季は神奈川県フットサルリーグ1部HONU(ホヌ)でゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129
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