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「豪の自滅」によってサッカー日本代表6度目のW杯出場決定――求められる冷静な目

 サッカー日本代表は31日(木)、ロシアW杯アジア最終予選グループBの第9節でオーストラリア代表に2-0で勝利。9月5日(火)にアウェイで行われるサウジアラビアとの最終戦を待たずして、6大会連続6度目のW杯本大会出場を決めた。勝つか引き分けで予選突破が決まる大一番に、ハリルホジッチ監督は長谷部、山口、井手口の3ボランチを採用。右FWにはスピードのある浅野を起用し、立ち上がりから激しいオールコートプレスで主導権を握る。終始押し気味に試合を進めた日本は前半41分に浅野のゴールで先制。後半37分には井手口の代表初ゴールが生まれ、2-0で完勝を収めた。 「豪の自滅」によってサッカー日本代表6度目のW杯出場決定。求められる冷静な目

日本メディアはハリルジャパンを賞賛。ネット上も祝賀ムード一色に

 決戦から一夜明けた9月1日(金)、各メディアは日本のW杯出場を大々的に報じた。「ハリル采配が的中。浅野と井手口がゴール!」「すべてにおいてオーストラリアを上回った日本! 盤石の勝利でW杯本大会へ」といった内容の記事がほとんどだ。SNS上やネット上でも「日本おめでとう!!」の声が溢れた。「あの宿敵・オーストラリアに何もさせなかった!」「こんなに安心して観ていられた代表戦は久しぶり!」といった喜びの声が大半だが、サッカーをよく観る方や競技者の方であれば、こうした世論に対して少なからず違和感を抱いたのではないだろうか。というのも、「今回のオーストラリア代表はあまりにも弱すぎた」という事実がことごとく見過ごされているからだ。

酷すぎるプレス回避。キック&ラッシュからの脱却を図り迷走するオーストラリア代表

 確かに、日本がオーストラリアを完全に上回ったのは事実だ。3ボランチを採用したハリルホジッチ監督のオールコートプレスは完全にハマっていた。相手GKからペナルティエリアの両脇に開いたCBへボールが出ると、機動力と運動量に優れた浅野、乾らが猛然とプレスを仕掛け、苦し紛れに出された縦パスには井手口らが鋭い出足で対応。序盤から完全に相手の自由を奪い、何度も相手陣内でボールを狩り取ってみせた。日本の連動したプレスが良かったことは確かだ。  だがそれ以上に、オーストラリアのプレス回避はあまりにも酷すぎるものだった。GKから出たボールを受けたCBは日本の選手の寄せに明らかな動揺を見せ、「自分のところで取られるのだけは避けたい」といった気持ちが見え隠れする雑なパスをボランチへ。下がりながら受けたボランチの選手も井手口らの厳しいチェックに自由を奪われGKまで戻し、さらにはそのGKのトラップがズレる間に大迫に寄せられてしまい、たまらず蹴り出しタッチラインを割る。「こうなるなら最初から普通に前線に蹴った方が良かったんじゃないか……?」と言いたくなるようなシーンが、まるでリプレイを見ているかのように何度も何度も繰り返された。この日のオーストラリアはおよそA代表とは思えないボールロストを繰り返し、何度も日本にチャンスをプレゼントしていたのだ。  この状況を見て誰しも疑問に思うのが、「そもそも何でオーストラリアが自陣から丁寧に繋ごうとしているの?」という点だろう。前線やバックラインに背の高い選手を揃え、強靭なフィジカルと縦への推進力を全面に押し出したサッカーを身上としてきたオーストラリア代表だが、アンジェ・ポステコグルー監督の就任以来、実は一貫して自陣から繋ぐパスサッカーへの転換を目指してきたのだ。それはキック&ラッシュと呼ばれる前時代的な「蹴って走るだけのサッカー」から脱却し、もう一段上の「自分たちでボールを動かし、ゲームをコントロールする主体的なサッカー」へとステップアップするためのものだった。  しかし、新監督の就任から3年を過ぎても、思うような積み上げはなされていない。ハリー・キューウェルやマーク・ヴィドゥカのいた時代に比べ個々のタレント力で劣ることもその状況に拍車を掛けている。「3年もやってきたのだから、今さら元のサッカーには戻せない!」と引っ込みがつかなくなってしまっているのだろうか。この日本戦でもポステコグルー監督は愚直すぎるほどに自陣からのビルドアップにこだわり続け、そのトライはことごとく失敗に終わった。90分間のうちに数回だけ日本の守備網を突破したシーンがあったにはあったが、初めから前線に蹴り出すオージーらしいフットボールをした方がより多くのチャンスを作れていたことだろう。  驚くべきは、後半の残り10分を切ってもなお、彼らが自陣からのビルドアップを試みてきたことだ。1点ビハインドという状況を考えても、急いで前線にボールを入れるべきだったはずだ。「まだ繋いでくるのか!?とベンチでも話していた」(岡崎慎司)と、日本としてもここまでオーストラリアが自分たちのサッカーにこだわってくるのは予想外だったようだが、試合後に多くの選手がコメントした通り、フィジカルで劣る日本としては「前線に蹴られる方が嫌だった」(乾貴士)ことは間違いない。結果、後半37分に自陣で原口にボールを奪われ、井手口のダメ押しゴールが生まれるに至ったのだ。
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6回目のW杯。メディアやファンに求められる冷静な視点
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フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129

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