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乾貴士が語るサッカー日本代表の可能性。世界最高峰のリーグで得た確かな自信

 サッカー日本代表は7日(水)、キリンチャレンジカップでシリア代表と対戦。仮想イラクとして臨んだテストマッチに1-1で引き分けた。後半3分にショートコーナーから先制を許した日本だったが、その10分後に左サイドからの長友の折り返しに今野が合わせて同点に追いつく。その後は優勢に試合を進めた日本だったが、最後まで逆転ゴールを奪うことはできなかった。  ホームでありながら前半にうまくペースを握れず、逆に後半立ち上がりという注意すべき時間帯に失点を許すなど、13日(火)に行われるイラクとのアウェイ戦に向け課題を残す一戦となった。しかしそれと同時に、久々の代表招集となったアタッカーが鮮烈な印象を残してみせた。スペイン1部リーガエスパニョーラ・SDエイバルに所属するFW乾貴士だ。

久々の招集となった乾が傑出した活躍を披露

「何でもっと早く呼ばなかったの?」。この日スタンドで、あるいはテレビで乾のプレーを観たファンの感想は概ねこんな具合だっただろう。後半13分、実に2年2か月振りとなる代表のピッチに立った乾は実に伸び伸びと自由にピッチを駆け回った。得意のドリブルで局面を打開したシーンは数知れず。相手が突破を恐れて足を止めたと見るや、今度は味方の足下に正確なボールをつけ、質の高いフリーランニングを交えながらリズムを作り続けた。圧巻だったのは後半31分のプレーだ。後半途中から右インサイドハーフにポジションを移した本田圭佑からの左奥へのロングボールを見事なトラップで収めると、一瞬ボールをさらして相手DFに食いつかせてから右足から左足のダブルタッチでゴールライン際を突破。中にえぐって右足を振り抜いた。シュートは惜しくも相手GKにブロックされたが、バルセロナでプレーしていた頃のロナウジーニョを彷彿とさせるようなプレーでスタンドを沸かせた。13日のイラク戦はもちろん、来年のロシア本大会での活躍を期待させるにも十分のプレーぶりだった。  テストマッチでの活躍についてここまで褒め称えるのは少々オーバーかもしれないが、事実、今季の乾はスペイン1部・リーガエスパニョーラで確かな存在感を見せつけた。SDエイバルの主力としてリーグ戦28試合に出場。アウェイのバルセロナ戦では利き足と逆の左足で2ゴールを決め、カンプノウに詰め掛けた9万人を黙らせてみせた。世界最高峰のリーグであるリーガのレベルについては、かつてエスパニョールでプレーした中村俊輔も「スペインだけはレベルが違う」と語っている。また、複数の欧州リーグでプレーした南米の選手らの中にも「スペインが世界最高」と証言する者は多い。他の欧州列強のリーグと比べても、もう一段レベルの高いリーグなのだ。そこで2シーズンプレーし、カップ戦も含め計59試合に出場した乾に、率直にスペインの何が違うのかを尋ねてみた。

スペイン人は本当にサッカーを知っている

「すべてですね。本当にもうすべてです」。乾はそう答えた後でこう付け加えた。「とにかくサッカーを知っていますね。それに尽きる」。スペイン人をはじめ、リーガでプレーする選手たちはみな一様にボールを扱う技術が非常に高い。だが、レベルが高いのはそういった目に見えるテクニックだけではない。 「自分がこのスペースに入ればここが空くとか、ここに出せば相手が絞るから裏が空くとか、とにかく“こう動いたらこうなる”ということをみんなが理解している感じですかね。ボールを持っている人も持っていない人も、チームのみんなが同じイメージを思い描いているからこそ連動性のあるサッカーができるんだと思います」  監督に言われたことだけをそのままワンパターンにこなしたり、各自がただ好きなように動くのではなく、その場その場で柔軟にプレーを選択する。多くの選手がフットボールの原理原則を理解しているベースがあった上でそれをやるからこそ、1つ1つが意図を持ったプレーになり、流れるような攻撃が生まれるのだ。ただ空いているところにパスを出していくような行き当たりばったりの攻撃ではなく、自分たちで主体的に狙って連動できているからこそ各自のプレーにも余裕が生まれ、ただでさえ高い技術を持った選手たちがよりその技術をいかんなく発揮できるようになるのだろう。 「スペインに行ってからプレーに余裕が出てきたかなと思います。サッカーをもっと楽しめるようになりましたね」  元々ボールを扱う技術には定評があった乾だが、スペインで2年間揉まれたことでそのサッカー観はより研ぎ澄まされたようだ。得意のドリブル突破にばかり目が行きがちだが、この日はマイボール時に試合を落ち着かせる役割も担うなど、選手としてより成熟した姿を見せた。久々の代表戦で見せた余裕のプレーの裏には、世界最高峰の舞台に立ち続けた確かな自信と、そこで得たスペイン流のサッカー観があったのだ。
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後半に垣間見えた日本代表の可能性
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フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129

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