サッカー日本代表・槙野智章はハリルジャパンの申し子となれるか?
サッカー日本代表は16日(火)、ロシアW杯2次予選グループEの初戦でシンガポール代表と対戦し、0-0で引き分け。11日(木)に横浜で行われた親善試合では4-0で完勝した日本であったが、この日は再三の決定機を決めることができなかった。
◆個々のメンタルの脆さが露呈される結果に
勝って当たり前――。スタジアムを包むそんな空気が無言のプレッシャーとなり、時計の針が進むのに比例して、普段はあまり目にしないようなイージーミスも増えた。新体制になってまだ4戦目であり、初めての公式戦。組織としての完成度が低いのは仕方なく、これから積み上げていく段階だ。しかし、個々の脆さがここまで露呈されるのは想定外だった。スタメン11人のうち、7人が欧州のクラブでプレーする選手。その7人全員が昨年のブラジル大会を経験している。いくらプレッシャーがあったとはいえ、これはまだアジア2次予選。本大会出場経験のある選手のメンタルがここで揺らぐようでは話にならない。
エースナンバー10を背負う香川真司にいたっては、交代を命じられると歩いてベンチに戻ってきた。残り時間が30分近くあったとはいえ、先制点を奪えずにいた日本としては、できるだけ迅速に交代を済ませ、すぐにでもプレーを再開したい状況だったはずだ。途中から小走りで戻りはしたが、ハリルホジッチ監督とハイタッチを交わす際にも目を合わさないまま、ベンチに腰を下ろした。不甲斐ない自分に失望していたのかもしれないが、そこにフォア・ザ・チームの精神を持つ余裕が残っていなかったことは確かだ。
引いた相手に手を焼いた日本は、多くの選手が期待されたプレーを披露できぬまま、終了のホイッスルを聞くこととなった。
◆槙野が攻守に存在感を発揮
フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129)
そんな中、W杯本戦の出場経験のない選手が指揮官の期待に応えるプレーを披露した。11日(木)のイラク戦に続き、この日も4バックの左CBとしてフル出場した、DF 槙野智章だ。所属する浦和レッズはJリーグ1stステージで未だ無敗。好調を維持する今季の浦和の中でも特に際立った存在感を示している槙野だが、その実力が十分に代表レベルであることを証明してみせた。「相手の19番にボールが入ったらすぐに潰せ」という指揮官の要求通り、縦パスが入れば厳しくケアしピンチの芽を摘んだ。数少ない前を向かれた場面でも落ち着いて対処し、チームに安定感をもたらした。
1対1でのディフェンスの強さには定評があるが、オフェンス面でも好プレーが光った。「吉田選手と僕は監督から、自分でひとつ縦にドリブルで運んで相手に近づいてから展開するように、そして当然積極的に縦パスを狙うように言われています」(槙野)という言葉通り、ビルドアップの場面でも積極的なプレーを見せた。立ち上がり、左SB太田宏介に相手選手が寄り過ぎた瞬間を見逃さず、その選手の背後を通して左FW宇佐美へ絶妙の飛ばしのパスを通した。さらにその数分後には、惜しくもオフサイドにはなったものの、縦に少し運んでから中盤を飛ばして本田圭佑の足元へ絶妙なスルーパスを供給するなど、随所に持ち味を発揮した。
そして出来が良かっただけに悔やまれるのは、後半のヘディングシュートのシーンだ。右サイドでボールを持った本田からのクロスを、ファーサイドで叩いた。決まったかに見えたが、ボールは惜しくも左ポストを直撃。歓声は大きなため息に変わった。試合後、槙野は悔しさを押し殺すように声を絞り出した。
「あれが試合を通して一番のチャンスだったと思いますし……、反省しています。ホームでお客さんもたくさん来てくれていたし、勝ち点3を取らなければいけなかった試合なので……。ただ、この2試合(イラク戦とシンガポール戦)を先発でフル出場させてもらって、今日の(DFラインの)4人も初めて組んだ4人でしたけど、その中で失点をゼロにできたこと自体は悪くなかったと思うので、その点は継続していきたいですね」
◆憧れの本大会へ 今がまさに正念場
悔しさが残る結果とはなったが、本人が語るように一定以上の力を示せたことは確かである。また、最後までメンタルの強さを維持したまま戦い切った数少ない選手だったことも間違いない。槙野の気持ちを前面に押し出したプレースタイルは、停滞したチームの雰囲気を変える力にもなり得る。今後アジアのライバル国や世界の強豪国と対戦した際にどういうプレーを見せられたかがポイントになってくるだろう。
サンフレッチェジュニアユース時代には2トップを組んでいたという森重真人とのポジション争いは激しいものになりそうだ。球際の強さや配給力に定評があり、昨年の本大会を経験している森重は強力なライバルだが、「(森重との競争は)自分にとってもすごくプラスになる。お互いに切磋琢磨していけたら良い」とあくまでも前向きだ。所属する浦和は、早ければ今日20日(土)にもJリーグ1stステージ優勝が決まる。代表での定位置確保には、まずはJリーグで好調を維持することが絶対条件だ。
「岡田監督のときもザッケローニ監督のときも代表には招集されましたが、最終的に本大会のピッチには立てませんでした。その分、ワールドカップへの憧れは人一倍強いです」
槙野は過去に何度かこのように語っている。フットボーラーなら誰もが夢見る代表のレギュラー、そしてW杯本大会のピッチへ。槙野は今まさに、キャリアの正念場を迎えている。 <取材・文/福田 悠 撮影/難波 雄史>
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