水風呂はまるで母親の胎内! 静岡県にある伝説のサウナに行ってみた
今日は新宿、明日は上野――首都圏サウナを東奔西走する、本誌サウナ記者のスギナミです。地方都市への出張では、ビジネスホテルではなくカプセルホテルに宿泊。校了後には自分へのご褒美と称してお気に入りのサウナに直行する日々。辛い奴隷労働の先にはサウナが待っている――そんな、オアシスを求めて旅する砂漠行軍よろしく、サウナ通いを続けて15年近い月日が経ちました。
最近では“サウナー”と称されるサウナ愛好家の芸能人やオピニオン、ブロガーの皆さんがサウナ浴の魅力を情熱たっぷりに語ってくださるお陰で、「サウナ浴の魅力とはサウナと水風呂、外気浴の相乗効果によるもの」だということは周知のこととなりつつありますが、肝心のサウナ施設についての善し悪しの評価はわかれます。特に、水風呂の温度に一過言をお持ちの方は多く、様々な口コミ情報などを総合すると、「水温20℃」を攻防戦に、「あそこの水風呂はいけてない」、「生温くてスカッとしない」など議論が巻き起こっているようであります。サウナーの皆さんが激怒する入浴マナーの一つに「サウナ後、かけ湯(水)をせずに即、水風呂に入る行為」がありますが、これは清潔感うんぬんの前に、「体温で水風呂が温くなる」ことが「サウナ浴に対する冒涜」だというのです。
個人的には「サウナ後の水風呂は、巷で推奨される1分では物足りず、5分、10分と浸かっていたい」長風呂派のため、20℃以下では冷たすぎてゆっくりできないため、「水風呂20℃以上」推奨派でした。ところが、これまで体験してきた水風呂の価値観を根底から覆すオアシスが、静岡県にあるというのです。
「ボクサーにとっての聖地が後楽園ホールであるのと同様に、サウナーにも聖地がある」
その言葉を噛みしめるたびに、何やら崇高な決意感のようなものに包まれた記者は、ちょうど「3月7日(サウナの日)にどのサウナを攻めるか?」を検討していたこともあり、19時33分東京発のひかり531号に飛び乗るのでありました。
東京から新幹線に乗って1時間ほどで静岡駅に到着。軽くおでん横丁で腹ごしらえをした後、タクシーを駿河湾方面へ走らせ10分ほどの場所に、目的地の「サウナしきじ」はありました。ちなみに、おでん横丁の地元常連客の皆さんに「『サウナしきじ』を訪れるために東京から来た」ことを告げると、皆、驚きを隠せない――というより存在自体を知らない人が多数のようです。灯台下暗しとはこのことでしょうか。
入浴料1400円と宿泊料金1400円の2800円を券売機で買い敷地内へと入ります。ロッカールームでアメリカの刑務所の囚人が着るような黄色のガウンに着替えて、同じフロアにある浴室へと直行します。
浴室に入ってすぐ目の前には、「ドドドドドーッ」という大音量とともに勢いよく水が天井から流れ出ています。同館の水風呂に使われている水は天然地下水(写真参照)。飲むことももちろん可能ですが、そんな水風呂は全国どこを探してもありません。これが「サウナしきじ」が“聖地”と呼ばれるゆえんなのであります。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1068003
最初はより深い快感を味わおうと、室温100℃超えのサウナに12分計の2周分、24分間入ります。10分ほどで「もう出たい」という誘惑に駆られますが、水風呂の快感をギリギリまで寸止めしてこそのサウナ道。朦朧とする脳内では、海外ドラマ『24』でテロリストの拷問に耐えるCTU捜査官。あるいは、『eye of the Tiger』のテーマでフィラデルフィアの街中を疾走するロッキーの姿に自分をかぶらせ、刻々と時間が過ぎるのを待ちます。30秒前には、やおらスクワットなぞを開始し、とにかく“ギリギリまで体をいじめ抜いた”挙げ句、いよいよメインディッシュの水風呂に突入です。
ササッとかけ湯(水)をしてから足を浴槽内に入れます。水温計は18℃を指しており、もちろん冷たいことは冷たいのですが、いつものピリッと「痛い」感触ではなく、柔らかく、肌を包み込むような、軟水特有の心地よさで、まるで母親の胎内にいるがごとくです。しばらく宇宙遊泳のように上下左右に体を泳がせながら、体をじんわりと水風呂に同化させていきます。ちなみに、これはマイナス10℃という厳寒期の野沢温泉のサウナ付き露天風呂で実際に体験しましたが、サウナ後、体が水風呂に同化した状態というのは、一種の無双状態の出来上がりです。無双状態になると、全裸で10分間、吹雪の中で寝っころがっても、体からスーパーサイヤ人のように白いオーラ(湯気)がメラメラと立ち上るばかりで、「まったく寒くない」のです。
メインディッシュを済ませたのち、デザートがわりに「ドドドドドーッ」と流れ落ちる水源の真下へと向かいます。小さな滝に打たれながら、真上を向いて口を大きく開き、流れ出る水を重力のおもむくままに胃袋に収めていきます。
「う、うめえ」
顔を上に見上げたまま手を広げおもむろに水を頬張る姿は、別に館内着がアメリカの刑務所に似ていたということに関係なく、映画『ショーシャンクの空に』の名シーンそのものです。まさに地球の恵み。豊穣な水資源に感謝の意は尽きません。そしてつくづく、水風呂の価値観を覆させられた体験でした。
その後、サウナ10分×3セットを繰り返した後、2階の休憩室へと上がります。推計3000冊のマンガ本が壁面にズラリと並べられ、テレビ付きリクライニングソファが置かれた休憩室。端のほうには酒と料理が楽しめる食事カウンターがあり、無線Wifi完備でノマドワークもOK。
こんな楽園があっていいのでしょうか。
サウナの魅力は浴室設備のみならず、付随する館内設備の居心地の良さも重要です。翌日午後には東京へ帰るつもりが、ついつい延泊してしまったのも当然の結果でしょう。 〈取材・文/スギナミ〉
駿河湾に面した“聖地”を巡礼

- 写真外の場所も含めてマンガの蔵書数は推計3000冊。何日でも泊まれます
- ビールのお供に納豆きんちゃく、野菜サラダ
- 朝食にはサバの塩焼き定食をチョイス。絶品!
- 別室には仮眠専用の部屋も用意されている
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