ニュース

牡蠣の旬はむしろ春!「雪解け牡蠣」ブランド化に託す、陸前高田の漁師の思い

生産者がその思いを語る意味

 2013年に具体的なコンセプトが完成。佐々木さんの似顔絵が入ったロゴ、パンフレットを作り、雪解け牡蠣の味の秘密、米崎の牡蠣漁師の思いをわかりやすく説明した。市場で目立つよう、牡蠣を出荷する発泡スチロールはコスト高を承知で色付きのものに。飲食店への営業はもちろんのこと、夏には「浜の繋がりズム」という漁業体験のツアーも企画、遊漁船の免許まで取得した。消費者との接点をよりつくるため、生産現場を直接見てもらい、牡蠣の生産のストーリーを知ってもらう。「モノ(牡蠣)」を売るだけでなく、そこに「コト(物語)」をつけて打ち出していった。
牡蠣の旬はむしろ「春」! 「雪解け牡蠣」ブランド化に託す、漁師の思い

パンフレットは、春限定「雪解け牡蠣」と冬の定番「米崎牡蠣」が両A面。佐々木さんの思いが込められている

チキ:世の中に「雪解け牡蠣」が出たのはいつなんですか? 佐々木:2014年の春ですね。当時はまだ、僕も仮設住宅住まいでした。初めは5000個をネット販売したんです。初日、2日と全然、注文が入らなくて……不安でしかたなかったのですが、1週間後位に火がついて完売。そこで、ちゃんと売れる商品ですよという実績を持って市場にもっていったんです。「雪解け牡蠣」で米崎の牡蠣を知ってくれて、「じゃあ、冬の季節も」ということで新しいお客さんがつくみたいな流れで、今のところうまく回ってる感じです。 飯田:例えば、山口の仙崎のイカはネット通販での売り上げが上がったことで、とにかく、イカは仙崎というイメージがついてきた。ずっと言い続けたことで、「イカ=仙崎」っていうのが認識されたわけです。「雪解け牡蠣」も、もう少しすると、「雪解け牡蠣」「米崎 牡蠣」で検索してくれる人が増えるんじゃないかな。
牡蠣の旬はむしろ「春」! 「雪解け牡蠣」ブランド化に託す、漁師の思い

市場に出荷する発泡スチロールにもこだわりが。「最近は、仕入れてそのままお店に並べる飲食店さんもあるので、容器ひとつとっても宣伝媒体になるんですよね」(佐々木)

チキ:他のワードが邪魔しないってことですよね。むしろ、今、有名じゃないからこそカラーがついてないメリットがある。お客さんの反応の変化はありますか? 佐々木:今、飲食店さんと一緒にコラボしているんです。飲食業界も厳しく、「生産者直接」っていうのが、業界の一つのキーワードになっていて、産地やブランド名も大切なんですが、飲食店も生産者直接に付加価値を見いだしているところがある。 こちらからすると、飲食店さんの直接取引は生産者の思いっていうのを直接、消費者に伝えられる場なんですね。お店の店員さんから「お客さん、こんなリアクションしてましたよ」っていうのを聞けるし、ソーシャルネットワークでつながってたりして、フィードバックも得られる。それが今、やっていて、いちばん楽しいですね。 飯田:市場を通さないとお客との距離は近くなるのはありますね、お客さんはどういうものを喜ぶかとか、どういう食べ方をしたいのかとかが、ダイレクトにわかる。 佐々木:あと、三陸っていうのは小規模漁家の集まりで、ものづくりには手をかけるんですが、正直、どう売るかとか他のことには無頼なところがあるんです。直接販売はやっぱり大変で、僕も99%は市場に出荷してるんです。そっちの方が安定的にお金がちゃんと入りますし。ただ、全体の数パーセントでもいいから直接販売にすることで、お客さんの声が聞ける。それが自分のモチベーションを上げることにつながるんですね。一生懸命に作っていても、つまずいてしまうことはありますから、やっぱり、やりがいは必要です。 飯田:黙々とやってればいいっていう、東北の気質もあるのかな。でも。それだけだと伝わらないのは確か。評価が遠いとくじけてしまうというか、「俺、何やってんだろう」って思うのは、どの仕事も同じです。 チキ:それは震災後、ブランド化に力を入れ始めて、初めて気づいたんですか? 佐々木:そうですね。取材していただく機会も増えて、自分で自分に言い聞かせてるみたいなところはあります。例えば、選挙に出るってことは、自分でマニフェストを口にすることで自分に言い聞かせてるんだなって思いました。お店と直接取引すると、自分の作ったものの良さを伝えたり、こだわりや思いを口にする機会ができる。それを周りや次の世代が見てて、「あ、漁業っていいな」っていうふうに思ってもらえる。次の世代を育てるためには胸張って、自分のやってることやこだわりを発言することが大事なんだろうなって思います。 チキ:最初に「雪解け牡蠣」を始めたいとか思ってた頃はまだ、実感が湧かなかったけれども、いざ動き出して広がっていって、なるほどこういった道もあるんだっていう感じなんでしょうか。 佐々木:10歩進んで曲がり角を曲がったら次の景色が見えるじゃないですけど。一歩ずつ歩き続けること、何かに挑戦し続けることで気づくことは多いですよね。
次のページ right-delta
米崎の牡蠣が美味しい理由
1
2
3
4
おすすめ記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています