ロックアップってなぁに?――連続投資小説「おかねのかみさま」
熟「すごーーーーい♡よかったわねぇ杉ちゃんさん。東宮さん、何がいいかしら?」
東「うーん、そうですね。アンリジローありましたっけ」
熟「はい♡」
綾「ほら!ちゃんとお礼しなきゃだめでしょ!」
杉「ありがとうございます!このお返しは!いつかかならず!」
東「いやいやいいんですよ。いま大変な時期でしょう。監査とか」
杉「そーーーなんすよ!!!あいつらSHUUTOMEみたいにイチャモンばっかりつけてきて、もうこっちは精神的に参っちゃって毎日ほんとに大変なんです!」
美「監査ってなんですか?」
杉「うん。僕の会社の株が世の中に広く売られることになるから、その前にウソとか間違いがないかどうか調べる役割の人たち。またはその業務」
綾「wikiっぽくしゃべらないで」
杉「はい」
美「でも、別にやましいところがなかったらなんにも問題ないんでしょ?」
東「そうでもないんですよねー。ねぇ杉ちゃんさん」
杉「えぇ。そうでもないんです。もちろんやましいとこなんかなんにもないつもりでこのチャンスに臨んでるわけなんですが、アイツらは僕らが自分でも気づかない点を立て続けに指摘してくるんですよ。揚げ足取りのプロみたいな人たちが束になって調べたらそりゃ僕らも見えてないとこ見つけてくるでしょ。その度に知りもしないことの【理由】を問われるわけですから、こっちゃ『さぁ〜?』ってわけにもいかないし、毎日が取調室ですよ」
熟「でも、そういう宿題ぜーんぶこなしたらたくさんお金はいってくるのよね♡」
杉「会社にはねぇ…」
綾「会社には???」
東「ロックアップもあるしねぇ」
杉「そうなんです!でもまぁ創業者が気軽に売るわけにもいかないだろってみんなから言われて、僕、こんな感じだからいくらでも気軽に売れるんですけど、同時にまわりの意見にも流されやすいので、クネクネしてるだけなんです」
綾「ロックアップってなぁに?」
東「上場時に大株主が一定期間持ち株を売れないよっていうルールです。上場直後に大株主が全部売っちゃうとすごい量の売りが出ちゃうでしょ。そうなると一般株主の利益を損ねかねないから、ロックアップ期間というのが設けてあるんです」
死「ナルホド…」
杉「だからね、僕は上場はするんだけど、そりゃまあ上場時に少しはお金も入るけど、どちらかというとそこに至るまでのありとあらゆるダメ出しでグデングデンになりそうで、しかも上場後もそんな状況が続きつつ、今度は業績も上げていかなきゃ一般株主に吊るされる。そんな未来が待ってるなうですよ」
東「いやーたいへんだ。上場なんかするもんじゃないねぇ。自分たちで考えて自分たちで稼いだお金の使いみちを、ちょっとお金持ってるだけの老人にあれこれ言われたくないですね」
杉「まったくです」
綾「そんなにいやならヤメちゃえばいいんじゃない?」
杉「うん…僕ぁもう小さな喫茶店でも開いてのんびり暮らしたいよ」
死「エー」
美「しー!」
熟「まぁでもいいじゃない♡そんな経験できるひと、世の中にそう何人もいるわけじゃないんだし、せっかくだから最後までやりぬいてみたらどうですか♡」
杉「でもねー。僕の寿命がそこまでもつかどうか?」
東「?」
次号へつづく
【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。
Twitterアカウント
https://twitter.com/daiokawa
2011年創刊メルマガ《頻繁》
http://www.mag2.com/m/0001289496.html
「大井戸塾」
http://hilltop.academy/
井戸実氏とともに運営している起業塾
〈イラスト/松原ひろみ〉
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