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「ちんちくりんの中年がモテるわけがない」――46歳のバツイチおじさんは南インドの楽園でとても卑屈になった〈第31話〉

俺はオーナーとにやけ面で握手をし、格安ローカルでバルカラビーチを目指した。 目的は金髪美女とビーチで寝そべるため。 バスをいくつか乗り継ぎ、バルカラビーチに着く頃には夕方4時を過ぎていた。 安宿を探していると「宿泊客は1日2回のヨガ無料」という看板の宿を見つけた。 「あ、金髪美女でうっかり忘れてた。俺、インドで漢を磨くために体を鍛えなきゃいけないんだ!」 インドといえばヨガ。 インドでの旅のテーマは“漢磨き”。 ここでヨガをしながら、なおかつ金髪美女と知り合えれば最高じゃないか。 スラムダンクの桜木花道だって、バスケを始めたきっかけは晴子ちゃんだし。 俺はここでの滞在をイタリア人オーナーが経営する一泊500ルピー(750円)の宿に決めた。 「ここで肉体改造に取り組むぞ!」 でも、まぁ漢磨きは明日からだ。 まずはビーチに寝そべる金髪美女だ。 俺は急いでバックパックを部屋に置き、シャワーを浴び、素早く水着に着替えると、急いでビーチに向かった。 果たして南インドで一番のビーチで美女と知り合いになれるのか? バルカラビーチは南インド最高のビーチという噂通り、普通のビーチとは少し違っていた。 そびえ立つ断崖絶壁の下に一面に続く美しすぎるビーチ。 アラビア海に面する隠れ家的な楽園ビーチは、海外ドラマ「LOST」のロケ地のような秘境感があった。

南インドで一番美しいと言われるバルカラビーチ

俺はその美しい景色に見とれながら険しい崖を下り、ビーチに到着した。 「おー! ここは……パラダイスか?」 景色も美しいが、それ以上に美しいのは、たくさんの白人水着美人。 しかもほぼ全員金髪だ! トップレスの美女がいないのは残念だが、よく見るとアジア人は一人もいない。 「あれ? ……ここ、アウェー??」 あんなに憧れたパラダイスなのに、急になんとも言えない疎外感が芽生えた。 スケベ根性はMAXなはずなのに、なぜか上がらない俺のテンション。 暗い顔でキョロキョロしながら、46歳のおじさんは一人ビーチを歩いた。 どう考えても挙動不審のぬるっとしたおじさんだった。 念願のパラダイスにいて、なんだこのせつない気持ちは……。 「どうした俺?」 この、突然芽生えた疎外感の原因。 それは、やはり白人コンプレックスだった。 手足が長い。 色が透き通るように白い。 背が高い。 日本人のちんちくりんの中年がモテるわけがない。 潜在的に感じていたこの卑屈な思いが、パラダイスのど真ん中で突然顕在化した。 俺はただの旅人。 ただのおっさん。 167cmの卑屈なおっさん。 だらしない体のバツイチおじさん。 この楽園は、今の俺にはハードルが高すぎる。 ゴーーーーーーーーーーーー! 音につられ空を見上げた。 空には一機の飛行機が白い飛行機雲を出しながら飛んでた。 何も恐れず飛んで行く飛行機の勇姿が眩しかった。 すると突然、スタジオジブリの名台詞が頭によぎった。 「飛ばねぇ豚は、ただの豚だ」 確かにそうだ。 何もやらないうちから白旗を上げていたら花嫁なんて出会えるはずがない。 こんなことじゃダメだ! 俺には後がないんだ! やるしかない。 何をやるんだ? いや、何でもいいからやるしかない。 紅の豚の主人公ポルコは豚だけど外国人のイイ女にモテていたじゃないか。 よし、俺だって。 そう心の中でつぶやくと背筋をしゃんと伸ばした。 そして、ビーチにいる二人組の水着姿の金髪美女を見つめた。 めちゃくちゃ美人だ。 ちょっとたじろいでしまう。 「よし、行くぞ……」 俺はどんぐりまなこをカッと見開き、眼力を強めに設定して、彼女たちを見つめ続けた。 ダメでもともと、せめて挨拶だけでもしよう。 俺の根拠のない自信を感じたのか、殺気みたいなものを感じたのか、 美女たちもまたセクシーな目で俺を物珍しそうに見つめ返している。 「オーーーーー! いける!いける!」 俺は勇気を振り絞り、二人組の美女に近づいて行った。 すると――――。 美女「あーーーーー! ごっつ!」 俺「え?」 自慢じゃねーが、こんな美人知らねーぞ。 マラ「ごっつ、私よ私。コーチンで宿が一緒だったマラとキラよ」 俺「おーーーー! こんなとこで会うなんて!!」 キラ「すごーい。運命的~。ここ座んなよ」 なんと、イギリス老紳士とバックウォーターツアーに行ったドイツの女神二人組だった。 まさか、こんなとこで再会するとは。 俺は水着姿の女神の隣にポツンと座った。 俺「バックウォーターツアーどうだった?」 マラ「うん。一泊二日は長すぎたかな」 俺「そうだよね。俺、そう思って半日にしたんだ。そういえばあのイギリス人紳士はどうだった?」 マラ「紳士? あーあのスケベなおっさんね。やたら、気持ち悪い感じで話しかけてくるから、途中から完全無視して二人で盛り上がってたの」 俺「えっ、あのおっさんスケベなの?」 キラ「そうよ。私たちが着替えようとしてる時、密かに見てるし」 マラ「ねーー。キモいよね~」 俺「………………」 あのイギリスのクソじじい……。 あんなにカッコつけてたのに、ただのスケベじゃねーか。 白人男子二人組「ねぇ、君たち二人組?」 マラ「そうだけど」 白人男子二人組「よかったら今晩一緒にご飯でもどう?」 マラ「ごめんね~予定があるの」 どうやらイギリス人のヒッピーがナンパしてきたようだ。 あの、俺、隣に座ってるんですけど。 俺「モテるね~さすが!」 マラ「そんなことないよ」 すると、今度は別の白人二人組がナンパをしてきた。 今度はアルゼンチン人らしい。 おい、白人男子たちよ。 君たちの目の前に日本男児が座ってるのが見えないのか? アルゼンチン人①「よう! ずいぶん焼けたね」 マラ「そう? もうちょっと焼きたいけど」 アルゼンチン人②「晩ご飯どうしよう?」 マラ「キラ、何が食べたい?」 キラ「何でもいいよ」 どうやらこの二人とは事前に約束しているようだ。 そりゃそうだ。 こんな美女二人を世の男たちがほっておくわけがない。 マラ「ねぇ、ごっつ。よかったら今晩一緒にご飯食べない?」 俺「え! いいの?」 キラ「もちろんよ」 マラ「ねぇ、彼、日本の友達なの。晩御飯一緒に食べてもいい? 私たちラストナイトだし」 アルゼンチン人①「全く問題ないよ。一緒に食べよう」 俺「あ、ありがとう」 アルゼンチン人①「じゃあ、カフェイタリアーノに夜の7時に待ち合わせね」 俺「今日、初日で場所がわからないんだけど」 アルゼンチン人②「ここから見える崖の上のレストランだよ」 ということで、ドイツの女神二人組とアルゼンチン人男子二人組の夕食に参加することとなった。 俺は宿に戻ってシャワーを浴び、頭にワックスをつけ髪の毛を立てた。 これで少しは身長差が縮まったはず。 「バルカラビーチの初めての夜としてはいい流れだ」
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カフェイタリアーノへ到着
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