「ちんちくりんの中年がモテるわけがない」――46歳のバツイチおじさんは南インドの楽園でとても卑屈になった〈第31話〉
俺は夜7時ぴったりにカフェイタリアーノに到着した。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
到着すると俺以外は皆、席についていた。
マラ「さすが日本人、時間に正確だね~(笑)」
俺「あ、ごめん。みんな集まってたんだ」
マラ「私たちも今着いたとこよ。お酒頼む?」
俺「インドなのにお酒飲めるんだ」
アルゼンチン人①「バルカラビーーチはツーリストプレイスだから飲めるんだよ」
俺「おーー。パラダイスだな」
キラ「まさに天国よここは。いいとこよね~」
皆にお酒が運ばれてきた。
アルゼンチン人②「じゃぁ、マラとキラのインドラストナイトに乾杯!」
全員「かんぱ~い!」
そう言ってディナーが始まった。
いい感じだ。
とてもいい感じだ。
パラダイスに美女とイケメン。そしておじさんが一人。
いや、でも卑屈にならなくてもいい。
美女がディナーに誘ってくれたんだから、俺にもチャンスはあるはずだ。
しかし、俺はここで圧倒的な劣等感を抱くこととなった。
「あれ? なんでだ? 彼らの英語が全く理解できない!」
海外留学や海外一人旅をした人ならきっとわかってもらえると思うが、白人同士の英語のスピードに全くついていけない。
スピードや発音がアジア人と全然違う。カブトムシとゴキブリぐらい違う。アジア人の英語はなんとなく片言同士で通じるのだが、このグループトークは全く聞き取ることができない。アルゼンチン人もドイツ人も英語は第二外国語のはずなのに。
キラとマラは、俺と向き合って話している時は、俺に合わせ、ゆっくりと聞きやすい発音で話してくれていたことを初めて理解した。
マラ「ごっつごめんね~。こっちで盛り上がっちゃって」
マラもキラも俺を気遣ってくれて優しいな。気を使わてごめんなさい。
俺「あ、気にしないで。俺の英語力の問題だから」
初めはマラもキラもたまに通訳っぽくこっちにわかりやすいように説明してくれたのだが、途中からお酒が入り4人で会話が盛り上がると、もう俺の存在を忘れたかのようにハイスピードの英語トークで盛り上がっていった。
俺は、何を言ってるのかずっと耳をそばだて聞き入るしかなかった。
結局、ほとんど何も喋れないまま、写真を撮ることもなく、惨敗のままディナーは終わった……。
マラ「ごっつ、ありがとうね。また、ドイツに来たら連絡ちょうだい」
キラ「じゃあね、ごっつ。おやすみ」
俺はマラとキラとハグをした。
白人女性とハグをするのは初めてだ。
抱き合った時、少し胸が当たってテンションが上がった。
でもそれは、痛みをともなう哀しきテンションだった。
アルゼンチン人①「この後、俺たちの部屋で飲もうぜ」
アルゼンチン人二人組は、マラとキラを連れて部屋に向かった。
そこに、俺は誘われなかった。
ま、そりゃそうか。
俺は一人、月夜の崖の上を黙って歩いた。海から流れてくる夜風が気持ち良かった。
「英語が喋れないと、白人女性と仲良くなることなんてできないな」
セブ島で猛勉強し、なんとか習得した英語だったのに。
東南アジアではなんとか通じた英語だったのに。
ここに来て、高く険しい言葉の壁を改めて感じた。
「英語、何とかしないとやばいぞ、これ。漢を磨いてる場合じゃないかも」
俺は割と絶望にも似た感覚で宿に戻り、べッドに横たわった。
そして、スマホを見ると一件のメッセージが入っていた。
バックウォーターツアーに行ったジャーナリストのケリーからだった。
ケリー「フェイスブック見たよ。バルカラビーチに来てるんでしょう? 私も昨日からここにいるの。良かったら明日ご飯でも食べようよ!」
おーーーーーー!
なんかいい流れが来てるぞ。
絶望に打ちひしがれていた夜に、ケリーからの誘いがタイミングよく来るなんて。
恋の神様はまだ俺を見捨ててないのかもしれない。
南インドで一番の楽園、バルカラビーチ。
どうやらここで新たな恋の物語が生まれそうな予感がした。
次号予告『ケリーとのデートでまさかの展開!? 南インドの楽園でついに恋が動き出す?』を乞うご期待!
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