更新日:2017年11月16日 20:50
お金

経済誌記者の嗅覚――連続投資小説「おかねのかみさま」

同日 アリファンカンパニー 社長室 「はぁ…」 「失礼します。社長、沼貝さん、どうでした?」 「ん? あぁ、うん。解決したよ」 「ほんとですか!!さすがだなー。いやー、一時はほんっとにどうなることかと」 「まぁ、カネは払うんだけどね。変な動きはもうしてこないとおもう」 「よかったです。いくらになりました?」 「さんおく。それは変わらず」 「え!3億払ったら来季赤字になっちゃいますよ!」 「うん。だから毎月300万円の100回払い。しかもこれは表からは見えない契約で表向きは1000万円で和解。毎月300万円のほうはコンサルティング契約ってことになった」 「あ、あぁ…それなら…赤字には…なりませんね…」 「まぁね。払える金額なんだよ。いまのところ。これからどうなるかはわかんないけど、いまのところ払える金額」 「だいじょぶですよ。ポケモンGOの影響も限定的でしたし、アリファンもVR対応したり対戦型にしたりしていけばユーザーもまた戻ってくるでしょうし、なにより上場してキャッシュリッチになったら若い会社に出資していけば10社に1社くらいはそれなりに形になるような世の中ですから」 「まぁねぇ…」 「何か、他に気になることがあるんですか?」 「んー、いや、まぁいいか。前だけむいてこう」 「そうですよ。このあと週刊エメラルドの取材が入ってますので、気分良くブチ上げてきてください」 「わかった」 ——— —— — 記者「なるほど。そうすると上場時の調達資金は現行アプリのSNS化や開発の内製化に使われるという認識でいいんですね」 「そうですね。この1,2年でオフショア開発の品質にばらつきが見られることと、開発が大規模になりはじめてきたことがちょうど上場に重なって、当面は新体制の構築に尽力することになりそうです」 「そうすると財務状況の改善は早くても1年後くらいになる観測ですか?」 「いえ、オフショア開発を引き上げるかわりに、現地日本人スタッフにローカライズに専念してもらおうと思っています。言語を変えるだけじゃなくて、地元でしか通じない言葉とか、テレビ番組で使われている流行語などを盛り込んで、ユーザーに刺さる横展開ができればと」 「具体的にはどちらで?」 「ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポールですね」 「中国は?」 「中国は、蟻族ってことばがあるらしくて…」 「蟻族?」 「大学を卒業しても定職につくことのできない都市部の青年たちです。だからアリンコを使ったアプリだと彼らのイメージが強すぎて、あまり良い印象を持たれないらしいんです」 「なるほど…」 「まぁ、何か別のアプリで進出しますよ」 「わかりました。ところでちょっと不確かなお話で恐縮なんですが、こちらの創業メンバーの薄井さん」 「!!?はい…」 「ブロードオンラインの沼貝さんと銀座で飲み歩いていたという目撃情報があるんですが、なにかご存知ないですか?」 「い、いえ。いやー、そうですか。景気いいですねぇ。最近なにしてんだろ」 「そうなんですよ。最近とくに何もしてないはずなんですが、沼貝さんと一緒だったということは、なにか画期的なものをまた作り始めたんじゃないかって憶測があるんです」 「いや、それはないっしょ!1990年代後半ならまだしも、いまはもう画期的なものなんてないですから。ベンチャーなんかほとんど情弱からの小銭回収画面つくってるだけですし、それ、人違いなんじゃないですか?」 「いえ、ウチの編集長からの情報ですので、見間違いはないかと」 「…」 「いずれにしてももし何か情報が入ったらお知らせください。金融機関もVCも新しいネタを血眼になって探してますし、杉浦さんなら何かと情報も入るお立場にいらっしゃるでしょうから」 「わかりました…」 「それでは今日はこのへんで。華々しいデビューをお祈りしています」 次号へつづく 【大川弘一(おおかわ・こういち)】 1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。 Twitterアカウント https://twitter.com/daiokawa 2011年創刊メルマガ《頻繁》 http://www.mag2.com/m/0001289496.html 「大井戸塾」 http://hilltop.academy/ 井戸実氏とともに運営している起業塾 〈イラスト/松原ひろみ〉
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