イワシが高級魚になるケース――連続投資小説「おかねのかみさま」
同日22:15 蒲田 スナック座礁
マ「ヒマよね」
村「ヒマだな」
マ「寒いからかしら」
村「寒くても、行きたい店には行くんじゃねぇかな」
マ「あら」
村「なんだよ」
マ「それじゃこの店になんにもないみたいじゃない」
村「ないっちゃないな。俺だってこの店に何を求めてきてるのか、自分でもわからないところがある」
マ「そんなこと言って、ほんとはアタシに会いに来てるんでしょ」
村「ない。昼間も会ったけど、特にときめきのようなものはなかった」
マ「確かになかったわね。ウチもなんかお客さん増えるようなことしたほうがいいのかしら」
村「たとえば?」
マ「んー、そうねぇ。若い子雇うとか」
村「若い子ねぇ…若いだけの子がいないのがこの店のいいところなんじゃねぇかなぁ」
マ「褒められてる…わよね?」
村「あぁ。褒めてる。なんつーか、今の世の中どこにいっても『こういうの用意しといたらこんな層のカスタマーはお金払うでしょ』みたいなもんばっかりだからな。だからこの店みたいに、川底に成り行きが積み重なったみたいな店は少なくなった。昔はいろいろあったんだよ。定食屋にしても飲み屋にしても、気前の良さだけで乗り越えちゃってるような店が。だけど減ったな。特に東京ではめったに見なくなった。この店も気前が良いってわけじゃないけど、なんつーか、店主の意図がない空間ってのがいつの間にか貴重になっちまったケースだな。あれだ。イワシが高級魚になっちまうみたいな。」
マ「あ、ありがとう…」
村「おう…」
学「こんばんみー」
マ「学長!いらっしゃーい!」
村「お、じじい。ご機嫌じゃねぇか。米寿か?」
学「いやいやいやいや。いいことあったんだなー。むかーーーし投資した会社が上場することになりそうなんじゃ」
村「なんだと?」
次号へつづく
【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。
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井戸実氏とともに運営している起業塾
〈イラスト/松原ひろみ〉
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