修行時代はいつまで続く?――連続投資小説「おかねのかみさま」
みなさまこんにゃちは大川です。
『おかねのかみさま』62回めです。
今日は六本木SLOW PLAYに行く前に書いてます。
※⇒前回「画期的なもの」
〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
杉ちゃん(杉) ITベンチャー社長。ヒットアプリ「アリファン」を運営
沼貝(沼) 杉ちゃんの先輩ベンチャー経営者で株主。脅迫事件の対処に勇躍
薄井(薄) 「アリファン」創業メンバー。アリンコの著作権に3億円要求
村田(村) 健太が師と崇めるノウサギ経済大学の先輩。元出版社勤務
ママ(マ) 蒲田のスナック「座礁」のママ。直球な物言いが信条
美熟女(熟) 美琴が働く銀座の高級クラブ「サーティンスフロア」のママ
〈第62回 カワシボ〉
午後 アリファンカンパニー
記者「なるほど。そうすると上場時の調達資金は現行アプリのSNS化や開発の内製化に使われるという認識でいいんですね」
杉「そうですね。この1,2年でオフショア開発の品質にばらつきが見られることと、開発が大規模になりはじめてきたことがちょうど上場に重なって、当面は新体制の構築に尽力することになりそうです」
記「そうすると財務状況の改善は早くても1年後くらいになる観測ですか?」
杉「いえ、オフショア開発を引き上げるかわりに、現地日本人スタッフにローカライズに専念してもらおうと思っています。言語を変えるだけじゃなくて、地元でしか通じない言葉とか、テレビ番組で使われている流行語などを盛り込んで、ユーザーに刺さる横展開ができればと」
記「具体的にはどちらで?」
杉「ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポールですね」
記「中国は?」
杉「中国は、蟻族ってことばがあるらしくて…」
記「蟻族?」
杉「大学を卒業しても定職につくことのできない都市部の青年たちです。だからアリンコを使ったアプリだと彼らのイメージが強すぎて、あまり良い印象を持たれないらしいんです」
記「なるほど…」
杉「まぁ、何か別のアプリで進出しますよ」
記「わかりました。ところでちょっと不確かなお話で恐縮なんですが、こちらの創業メンバーの薄井さん」
杉「!!?はい…」
記「ブロードオンラインの沼貝さんと銀座で飲み歩いていたという目撃情報があるんですが、なにかご存知ないですか?」
杉「い、いえ。いやー、そうですか。景気いいですねぇ。最近なにしてんだろ」
記「そうなんですよ。最近とくに何もしてないはずなんですが、沼貝さんと一緒だったということは、なにか画期的なものをまた作り始めたんじゃないかって憶測があるんです」
杉「いや、それはないっしょ!1990年代後半ならまだしも、いまはもう画期的なものなんてないですから。ベンチャーなんかほとんど情弱からの小銭回収画面つくってるだけですし、それ、人違いなんじゃないですか?」
記「いえ、ウチの編集長からの情報ですので、見間違いはないかと」
杉「…」
記「いずれにしてももし何か情報が入ったらお知らせください。金融機関もVCも新しいネタを血眼になって探してますし、杉浦さんなら何かと情報も入るお立場にいらっしゃるでしょうから」
杉「わかりました…」
記「それでは今日はこのへんで。華々しいデビューをお祈りしています」
同日 21:55 スナック座礁
マ「ヒマね」
村「あぁ」
マ「けんたくん、うまくいったかしら」
村「だといいけどな。連絡もないし、きっと面接に合格してそのまま働いてるか…」
マ「か…」
村「かっこ悪くて帰ってこれなくなったか…」
マ「か…」
村「まぁどっちにしてもあいつはいい奴だった」
マ「あら、過去形じゃないの」
村「まぁな。あいつがなにかデカイことやってくれるかもしれないってどっかで楽しみにしてたんだけど、ああいうタイプは一度決まったことやり始めると、いつまでたってもそこにいちゃうことが多いからな」
マ「あー」
村「どんな仕事でもそれなりに達成感を見出しちゃうタイプとか、10回に1回ホメられちゃうと舞い上がるやつとか、要するにやめ時がなくなっちまうんだ。だからこそ、自分では厳しい修行に耐えてるつもりでがんばってても、どんどん歳だけとっちまうんだよな」
マ「早く気づくといいわね。でも、修行が中途半端になるのもよくないか」
村「まぁな。それでもまだきっかけはあるんだよ。つまんない日常のつまんない修行を重ねていきながら、劇的に変化が訪れるきっかけが。だけどそれにはふたつ問題がある」
マ「なぁに?」
村「奴がそれに気づくか。それと、奴自身にツキがあるか」
マ「あーーーーーーー」
村「あーーーーーーーーだろ。スルーしそうだろ」
マ「そうねぇ…修行中の世界を鵜呑みにしちゃう感じだものねぇ。だけど、世の中には本人の意志に関係なく巻き込まれていく人もいるわよね」
村「ん。そうだな。俺はそういう奴こそが実は『ツキ』のあるやつだとおもってる」
マ「なるほどねぇ…」
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