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90年の歴史で初!将棋連盟理事解任騒動を田丸九段が振り返る

 しかし、昨年12月に提出された第三者委員会の調査報告書により、三浦九段の疑惑は払拭される。久保九段が疑惑を抱くきっかけとなった「30分の離席」はまったくの事実誤認であったうえに、三浦九段のスマホからは対局中に使用された形跡が発見されなかった。スマホの遠隔操作アプリを利用した、PC上での将棋ソフト「技巧」の使用が疑われたが、対局中のPCの動作も確認できず。一致率に関しては、三浦九段以外にも「高い一致率を示した連盟所属棋士も存在」し、不正の根拠として用いることは困難という見解が示されたのだ。  第三者委員会の調査で三浦九段の潔白が証明されたことを受けて、今年1月には谷川浩司会長と島理事が辞任を表明。2月6日の臨時総会では、佐藤康光九段が新会長に就任したが、棋士たちはこれで解決したとは考えていなかった。田丸九段が話す。 「常務会が下した三浦九段への処分は、結果的に名誉を棄損した冤罪であり、人権侵害でした。棋士の務めは対局することに尽きるんです。その務めを、証拠なく疑惑だけで奪ってしまいました。それも、理事会の承認も得ぬまま(理事会は常務会を構成する常務理事に加えて、川淵三郎氏や谷川治恵女流五段ら5人の非常勤理事と2人の監事で開く)処分を下したのです。  それに加えて、第三者委員会の弁護士たちへの多額な報酬や今後の三浦九段への補償額(仮に竜王戦に挑戦し、タイトルを奪取していたら4320万円、奪取できぬ場合でも1590万円の賞金が得られた)を考えると、1億円近い金銭的な損失を連盟に与えたという点でも、理事らの責任は大きい。そのため、私を含めて28人の棋士が5人の理事の解任を求める書面に署名し、2月6日の臨時総会に提出したのです」  その解任動議提出の発起人を務めたのは、元理事の滝誠一郎八段と上野裕和五段、西尾明六段の3人。このうちは、西尾六段は青野専務理事の弟子にあたる。採決が行われた2月末の臨時総会では、この西尾六段が最初に、解任動議の趣旨を説明。 1.連盟の正会員である棋士の立場を守らず、棋戦運営に支障をきたした 2.連盟の信用を大きく損ね、将棋ファンを失望させた 3.連盟に多大な金銭的損失を与えた 4.棋士に対して説明責任を果たさず、誤った説明をした (田丸九段のブログ「と金横歩き」より) と読み上げたという。このように弟子が師匠に対して、公然と解任要求を突き付けたことは、将棋ファンの間でも話題になった。しかし、田丸九段によれば、「師弟関係が悪化したわけでもなく、正義感に突き動かされて西尾六段が行動しただけ」だという。 「そもそも、我々は本当に解任動議が可決されるなんて思ってもいなかったんです。単に、『これぐらい棋士は不満に思っているんだ』と理事らにプレッシャーをかけて、連盟の正常化を促すのが目的だったのです。総会の出席者は委任状を含めて216人(正会員234人)。当然、理事らも“票固め”をするはずですから、『80票も集まったらいいほう』と考えていた。  ところが、総会が近づくにつれて、『解任に賛成する』という棋士が増えて行きました。同志と情報交換をしていると、総会直前には『100票を超えそうだぞ』と。最終的に、解任された理事も留任した理事も、過半数の109票に対して2~8票差の僅差でした。留任した東和男八段は関西所属なので、関西の棋士たちが解任に反対を投じたのだと思います。同じく留任した佐藤秀司七段は、私も親しい間柄ですからね。棋士たちの“手心”が僅差での解任・留任に繋がったと見ています」  対局する棋士らの姿からは想像できないが、株主総会で繰り広げられるプロキシーファイト(委任状争奪戦)さながらの票固めと人間臭い駆け引きが繰り広げられていたというのだ。
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