――大仁田さんのどんなところに憧れたんですか。 田中：カッコよく見えたんですよね。見た目とかじゃなくて、生き様というか。体型なんか、ずんぐりむっくりじゃないですか（笑）。その頃は「涙のカリスマ」と呼ばれていて、男が男に惚れるみたいな感じでした。人と同じことをやらなかったから、目を引いたんだと思います。あの頃、リングの上から水を噴いたりする選手もいなかったし、リング上で感情を露わにして泣いたりする人もいなかった。大仁田厚って、僕が好きになった頃から、そんなに強いわけでもないんですよね。小さい頃って強い人に憧れるっていうのがあるじゃないですか。だから最初は初代タイガーマスクのカッコよさとか強さとかに惹かれたんです。でも大きくなるにつれて、人間臭さというか、男臭さというか、そういうところに惹かれるようになったんですよね。 ――デスマッチにも憧れはありましたか。 田中：デスマッチが好きなわけではなかったです。FMWに入りたいと思ったのは、本当に大仁田厚が好きだったから。試合のスタイルとかは、これがやりたいあれがやりたいというのは全くなかったです。FMWに入ったらデスマッチはつきものだなというのはありましたけど、人間・大仁田厚が好きで近くに行きたかっただけですね。 ――ハードコアのイメージが強い田中選手ですが、デスマッチとハードコアの違いとは？ 田中：僕の考え方で言うと、有刺鉄線とか脚立とか、普段ないものを持ち込むのがデスマッチ。ハードコアというのは、普段の試合でもあるものを使う。椅子は客席にあるし、テーブルはリングアナの席にありますよね。普段からその辺にあるものを上手く使ってやるのがハードコアだと思います。 ――いまデスマッチの凶器アイテムは、蛍光灯やカミソリなど、どんどんエスカレートしていますが、どう思われますか。 田中：命を賭けて試合をしていると思うので、そこを極めている人たちっていうのは僕はすごいなと思います。やれって言われたら……やれるかも知れないけど、連続ではやりたくない。一回だけならまだいいですけど、それが毎日続くようだと、シャワーするのも大変だし、布団に入るのも大変だし。でもそれをやっている人はそういうところで極めているので、すごくリスペクトします。 ――やりすぎだとは思わない？ 田中：それを見たくてお客さんが来ているということは、それはそれで正解なんだと思います。やっぱりプロレスラーって、普通の人がやれないことをリングでやるから、お客さんはすごいと思って観に来るわけじゃないですか。カミソリを使ったりとか、そういう中で試合をするのは普通の人はまずできないし、人間離れしたところを見せるというのもプロレスの一つだと思います。プロレスに関して、否定するものはなにもないですね。デスマッチもあって、女子もあって、お笑いもあって、いろんなものをやっていたのがFMWだったので。そこの出身者が「それ違うだろ」と言っても説得力ないですし。僕はすべてのものがプロレスだと思います。 ――少ない凶器で沸かせるのが、ハードコアの奥深さなのかなと。 田中：自分からなにかを持ってきたりというのを、あまりしないですからね。体の丈夫さというのも売りだと思います。僕が海外に呼ばれてある程度成功したのは、体の丈夫さであって、たぶん僕のやられっぷりがすごかったので、海外のお客さんにウケたんだと思うんですよね。やられてもそこで終わらずに、そこからやり返すからお客さんが沸く。あんなにボコボコやられたら、体が丈夫じゃないと立ち上がれなくなると思うんですよね。アメリカの椅子ってスチールなので、底が抜けたりとかもしないんですよ。痛みが首にずっしりとくる。体の丈夫さもハードコアの武器なんです。