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右目が見えなくても“2代目人間風車”鈴木秀樹のレスリング論【最強レスラー数珠つなぎ vol.7】

「最強レスラー数珠つなぎ」――毎回のインタビューの最後に、自分以外で最強だと思うレスラーを指名してもらい、次はそのレスラーにインタビューをする。プロレスとはなにか。強さとはなにか。この連載を通して探っていきたい。

 これまでのインタビューでは、主に時系列に話を聞いてきた。子供の頃からプロレスが好きだった? 好きになったきっかけは?

 しかし今回、悩んだ。彼に時系列にインタビューすべきかどうか。子供の頃の話を聞くべきか。悩んだ。なぜなら彼は生まれつき、右目の視力がほとんどない――。悩んだ結果、私はその話題を避けた。レスリングの名手には、レスリングの話を聞くのが正しい。そう思ったのだ。

 大切なことを、私は見失っていた。そして鈴木秀樹に、それが何かを教わることになる。

右目が見えなくても “2代目人間風車”鈴木秀樹のレスリング論【最強レスラー数珠つなぎ vol.7】【vol.7 鈴木秀樹】

――石川修司選手のご指名です。“人間風車”ビル・ロビンソン氏から「キャッチ アズ キャッチ キャン(以下、CACC)」を学び、正しいレスリングを持っている、と。

鈴木秀樹(以下、鈴木):この連載って、佐藤光留さんから始まったんですよね? その後、崔(領二)さん? 崔さんにいったのがすべての間違いです(笑)。普通じゃないですからね。僕が言うのもなんですけど、すごいヘンな人です。光留さんも崔さんも’80年生まれなんですよ。僕もなんですけど。光留さんが言っていたのは、「’80年生まれはろくなレスラーがいない」と。谷間ですらないっていう。

――先月上梓された『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』(日貿出版社)、すごく面白かったです。レスリングってこうなっていたのかと。

鈴木:30過ぎたおっさんの写真集ですよ(笑)。

――どの層に向けて書かれたのでしょうか。

鈴木:組み技の格闘技をやっている人たちと、あとは昔のプロレスファンでしょうか。僕が試合でやっていることの解説というか、こういう理屈があるんですよ、みたいな感じです。個人的には、自分がやってきたものを遺すという意味合いが大きいです。かつて指導をしてくれたビル・ロビンソンに、「これくらいの本が出せるようになりましたよ」と伝えたいですね。

――「古代から続く伝統のグレコローマンと、近代の英国発祥のフリースタイル誕生までの“ミッシングリンク”としてCACCが存在していた」と書かれています。

鈴木:構えはどちらかと言うと、グレコローマンに近いんです。体が起き上がっている感じでやるので。フリースタイルって、タックルを取りに行くためにどうしても低くなるんですよ。試合時間も短い。CACCは長い時間を想定しているレスリングです。ロビンソンは、「1分や2分だったら、実力もあるけど運もある」と言っていました。だけど30分とか1時間になると、運じゃダメだと言われたんですよね。

――フリースタイルに近いのかと思っていました。“catch as catch can”(掴めるように掴む)という意味だと、フリースタイルですよね。

鈴木:元々、オリンピックのフリースタイルの名称って、CACCだったんですよ。おそらく広めるためにどこかで変わったんだと思うんです。「キャッチ アズ キャッチ キャン」って言いづらくないですか。だったらフリーとグレコのほうが言いやすい。柔術が柔道になって、普及させるためにルールも変えたりしますよね。そういう中で変わっていったんじゃないかと思います。

 当時イギリスにはレスリングのスタイルが4つくらいあって、その1つがランカシャー・スタイル。所謂CACCと呼ばれているものです。あとはコーニッシュ・スタイルと言って、道着の上だけ着てやるサンボのようなレスリングとか。いくつかあったんですね。グレコローマンはフランス発祥なんですけど、CACCは違うスタイル同士の試合をやるときの申し合わせのルールだったらしいです。例えばキックで言うと、K-1みたいな感じだと思うんですよ。K-1って、ムエタイとかキック空手とか、なるべく統一したルールでやりましょうということですよね。それがレスリングの場合だと、CACCでどこでも掴んでいいことにして、関節技もありにしようという感じだったのかなと。

⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1292608

 レスリングなんて世界中、どこにでもあるんですよね。日本だったら相撲、モンゴルだったらモンゴル相撲。ヨーロッパだったらフリースタイル、グレコローマンもそうだし。アフリカとかにも絶対あるんです。人間、裸になったら、殴るか取っ組み合うか、どちらかだと思うんですね。殴ったらボクシングだし、取っ組み合うとレスリング。ロビンソンは「すべてのスポーツはイギリスがスタートだ」と言っていたんですけど、そんなわけないだろうと(笑)。

――ロビンソン先生はどんな方だったんですか。

鈴木:イギリス人っぽくて頑ななところはありましたけど、気のいいおじいちゃんみたいな感じでした。たまにめんどくさいな、くらいの(笑)。レスリングの教え方が本当にすごいんですよ。「この技をやれ」と言われて失敗すると、「じゃあ、次こうやってやれ」って、ちょっと違う言い方をされるんです。また失敗しても、次これやれ、次これやれって、次々出てくるんですよ。それでハマるんですよね。ハマったあとにもう一回やってみろと言われると、出来ているんです。しかも、子供やお年寄りにも同じように教えられる。人それぞれ体格も違うじゃないですか。体が細い人、太い人、手足が短い人、長い人。同じ技でもちょっとずつアレンジして、「お前はこういう体格だからこうしろ」というのをちゃんと教えていました。教え方は本当にすごい人でしたね。あとはビールとアイスが大好きで、女好きでした(笑)。

――ロビンソン先生の教えとはどのようなものでしたか。

鈴木:レスリングは力でやるんじゃなくて、スピードと技術と戦略でやるものだと。なぜ力がダメかと言うと、試合時間の長さもあるんですけど、力って発揮できる時間がそんなに長くないじゃないですか。そうなってくると、正確な技と、戦略と、スピード感ですよね。頭を使えと言われました。僕は体格が大きいので、ちょっと強引にやるときがあるんです。そういうのは絶対ダメでしたね。

 よくチェスに例えていました。「レスリングはフィジカル・チェスだ」と。チェスっていきなり王様を取れるわけじゃなくて、いろんなコマを使って、こいつはおとりにして、最終的にはこいつを取りにいくために違うコマをおびき寄せる。それをレスリングでもやるんです。本当は腕を取りたいんだけど、いきなり取るのは難しいから、足を狙う振りをして腕を取りにいく。やられる方は、腕を狙われているのが分かって、でも足からきた腕だから、わざと足を取らせて、腕にきたところで返すとか。段階を踏んでやるんですよ。日本にも将棋があるから、レスリングは日本人に絶対合っているとロビンソンは言っていました。

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U.W.F.スネークピットジャパンに入門した理由

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■大日本プロレス 「一騎当千~Death Match Survivor~」開幕戦
http://www.bjw.co.jp/event_detail.php?id=1399

【開催日】2017年3月5日(日)
【開場時間】11時00分
【開始時間】12時00分

【メインイベント】BJW認定世界ストロングヘビー級選手権試合(関本大介vs鈴木秀樹)

ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門

往年の名プロレスラーであるビル・ロビンソン氏より直接学び、現役プロレスラーとしてリングに上がる鈴木秀樹氏を著者に、精密な分解写真で“見れば分かる"世界でも類を見ない技術書




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