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夏に飲むべき日本酒は濁り酒のワケ ビジネスマンのための一目おかれる酒知識

~ビジネスマンのための一目おかれる酒知識 第6回日本酒編その3~  ビジネスマンであれば、酒好きでなくても接待や会食で酒に親しむ機会は多いです。そして多くの人は「それなりに酒に詳しい」と思っているはず。しかし、生半可な知識、思い込みや勘違いは危険。飲み会の席で得意げに披露した知識が間違っていたら、評価はガタ落ちです。酒をビジネスマンのたしなみとして正しく楽しむために「なんとなく知っているけどモヤモヤしていた」疑問を、世界中の酒を飲み歩いた「酔っぱライター」江口まゆみがわかりやすく解説します。

暑い時期、冷酒を選ぶだけでなく濁り酒をチョイスすることで、さらに日本酒の世界が広がる

夏に味わいたい濁り酒

 白く濁った日本酒を、なんと呼んでいますか? 通常は「濁り酒」と言いますよね。でも、あまりお酒に詳しくない人は、「どぶろく」と言ったりします。実際、どぶろくをもじったような名称の濁り酒もあったりして、混乱を助長させているような気がします。  じつは酒税法上、濁り酒とどぶろくはまったく違います。清酒の定義は「米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、漉したもの」となっていますので、漉さないと清酒とは言えないのです。ですから清酒とはすべからく澄んでいなくてはいけません。ではなぜ、濁り酒というものが存在するのでしょうか。

濁り酒とどぶろくの違い

 その前にまず、どぶろくとはなんでしょう。漉(こ)してない酒、すなわち醪(もろみ)の状態のことです。醪なら、酒蔵の取材でたまに味見をさせてもらうことがあります。まだ米粒が残っている発酵途中のものもありますが、もうすぐ上槽という醪になると、しっかりアルコールが出ていて香りもよく、アルコールの副産物である炭酸のシュワシュワ感もあって旨いです。  これはいわゆるプロがつくったどぶろくといってもいいでしょう。昔は各家庭でどぶろくがつくられていました。家庭で味噌をつくっていた時代ですから、酒だってつくっていても不思議ではありません。しかし、明治政府は酒税の取れないどぶろくを根絶しようと画策します。そして明治32年に自家醸造を全面的に禁止し、どぶろくを密造酒として取り締まりました。  そう、どぶろくは一時完全に絶滅したのです。それを「濁り酒」として復活させたのが、京都伏見で300年以上続く酒蔵「月の桂」の先代蔵元でした。私は蔵を取材し、蔵元から直接話を聞いているので、間違いはありません。 「父は、じゅうぶんに発酵した醪を中ほどから汲み出し、目の粗いザルで漉すという奇策を編みだしたんです。だから白濁しているけれど、一応漉しているから法律違反ではありません、と。まあ、ある意味法律の隙を突いたわけですが」と、蔵元の増田徳兵衛さんが、そのからくりを教えてくれました。  しかし国税庁もだまってはいません。結局大モメにモメた末、酒税法に濁り酒の製法を新たに規定することで決着したそうです。こうして全国の蔵がどぶろく風の濁り酒をつくれるようになったのでした。

濁り酒はどぶろくを手本に開発された酒

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発泡する濁り酒
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ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び

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