「焼酎お湯割り」を劇的においしく飲む、ちょっとしたコツ
~ビジネスマンのための一目おかれる酒知識 第12回焼酎編その3~
ビジネスマンであれば、酒好きでなくても接待や会食で酒に親しむ機会は多いです。そして多くの人は「それなりに酒に詳しい」と思っているはず。しかし、生半可な知識、思い込みや勘違いは危険。飲み会の席で得意げに披露した知識が間違っていたら、評価はガタ落ちです。酒をビジネスマンのたしなみとして正しく楽しむために「なんとなく知っているけどモヤモヤしていた」疑問を、世界中の酒を飲み歩いた「酔っぱライター」江口まゆみがわかりやすく解説します
2003年頃から数年にわたって、本格焼酎ブームがあったのはご存じの通りです。とくに東京で流行ったのが、芋焼酎のオンザロックでした。それまで酒臭い安酒として、オヤジが飲むものとされていた芋焼酎が、「甘みがあって飲みやすい」「オシャレ」と女性の間でもブレイク。それまで焼酎を置かなかった、バーや高級寿司店にまで焼酎があるのも、今や当たり前になりました。
芋焼酎が飲みやすい酒に変わったのには、いくつかの理由があります。それは、流通がよくなり、原料の芋が新鮮なまま工場へ運ばれるようになったことや、醸造技術と蒸溜技術が進歩したことなどによります。
当時は一般的な米麹を使わず芋麹を使ったり、原料の芋の種類を変えたり、ハナタレといって、蒸溜の最初に出てくる原酒を集めた芋焼酎をつくったりと、さまざまな試みがなされました。その技術は今も受け継がれて芋焼酎の品質をさらに高めています。
こうしたブームに乗って、私にも焼酎取材の依頼がたくさんきました。一番キツかったのは、「焼酎52種類飲み比べ」という雑誌の企画です。数人で手分けして一日がかりでやりましたが、さすがに焼酎52杯はキツかったです。
蔵元を訪ねて鹿児島へも行きましたが、そこではたいへんなカルチャーショックにあいました。
ここから先は、鹿児島では当たり前のことですが、県外の芋焼酎ファンのために、鹿児島の方はしばらくおつきあいください。
驚いたことに、鹿児島では、誰もオンザロックでなど芋焼酎を飲んではいなかったのです。彼らの飲み方はお湯割りが基本でした。しかもお湯で割った芋焼酎がグラスで出てくるのは高級店で、たいていはグラスとボトルとポットが3点セットで出てくるのです。
それを好きなように割って飲むのですが、このグラスがまたすごい。おそらくメーカーがお店に配っているのでしょう、「薩摩白波」などと商品名が書いてあり、ガラスは適度に厚く、大きさは大人の手に馴染むくらいの小ぶりです。そして素晴らしいのは5:5とか6:4という目盛りが入っていることです。つまり、割るときに焼酎の濃さの目安にしてくれというわけです。
私はだいたいお湯6対焼酎4が好みなので、お湯を先に6:4の目盛りのところに入れます。お湯を先に入れるのは、酒とお湯が対流して、うまく混ざりやすいからだと鹿児島の人に教えてもらいました。また、お湯を先に入れることで、少し温度が下がるのもポイントです。鹿児島のお湯割りの温度はだいたい40~60度くらいではないでしょうか。東京のお湯割りは熱湯に近いお湯で入れる店が多いので、熱すぎますし、酒の濃度もたいてい薄すぎます。はっきり言って、東京のお湯割りは、鹿児島と違っておいしくないのです。だから東京の人は芋焼酎をオンザロックや水割りで飲むのでしょう。
私は鹿児島の焼酎グラスを「芋焼酎の最終兵器」と呼んで、ひそかに東京でも流行らせようと、いろいろな店に持ち込んで紹介しましたが、うまくいきませんでした。
このグラスの良さは、目盛りがあるのはもちろんですが、まず厚さです。適度な厚みがあるので、手に熱さが伝わりにくく、持ちやすいのです。そしてこの大きさ。小ぶりなので、お湯割りが冷める前に、ちょうどよく飲み終わるのです。まさにお湯割りを美味しく飲むために作られた最高傑作品ではないでしょうか。
「芋焼酎はロック」が流行ったワケ
お湯割りをおいしく飲む本場の知恵
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