雑学

吟醸酒をお燗したら不味くなるは本当か? ビジネスマンのための一目おかれる酒知識

~ビジネスマンのための一目おかれる酒知識 第5回日本酒編その2~

 ビジネスマンであれば、酒好きでなくても接待や会食で酒に親しむ機会は多いです。そして多くの人は「それなりに酒に詳しい」と思っているはず。しかし、生半可な知識、思い込みや勘違いは危険。飲み会の席で得意げに披露した知識が間違っていたら、評価はガタ落ちです。酒をビジネスマンのたしなみとして正しく楽しむために「なんとなく知っているけどモヤモヤしていた」疑問を、世界中の酒を飲み歩いた「酔っぱライター」江口まゆみがわかりやすく解説します。

吟醸酒をお燗したらいけない!?


「大将、これお燗にして」

「ダメだよお客さん、これは大吟醸だから冷やして飲まなくちゃ」

「そうなの? 俺は燗酒が飲みたいんだけど」

「じゃ、こっちの純米酒にしてください」

「それじゃなくて、この大吟醸が飲みたいんだよ」

「ダメダメ、ウチはね、大吟醸はお燗にしませんから!」

“いい日本酒”は冷で飲むのが当たり前と考えがちだが……

 こういう押し問答、よくありますよね。とくに酒のウンチクたっぷりの日本酒専門店に多いような気がします。このあとに続くお店の言い分は、だいたい次のようなものです。

「吟醸酒はお燗にすると香りが飛んでしまう」

「燗酒は純米酒や本醸造酒こそふさわしい」

「大吟醸をお燗にするなんてもったいない」

 あなたも上から目線でこのように説得されて、「そういうものなのか」と信じていませんか?

 でも、本当に吟醸酒はお燗にしてはいけないのでしょうか。

 私の思うところ、実際、お燗にすると美味しくなくなる吟醸酒というのはあります。でも全部ではありません。

 これは吟醸酒に使われている酵母と密接な関係があります。昔から吟醸酒に使われていたのは、協会9号酵母(熊本酵母)や、80年代に開発された静岡酵母などでした。これは酢酸イソアミルという香気成分を生成し、やわらかなバナナやメロンの香りがします。

 しかし、90年代に入るとアルプス酵母に代表される「香り系」と呼ばれる酵母が登場します。これはカプロン酸エチルという香気成分を生成し、派手な香りが出るので、そのリンゴや洋ナシを思わせる香りは、一気に吟醸酒ブームに拍車をかけました。

 現在では、全国新酒鑑評会で金賞を取るためには、香り系酵母を使わないと入賞は難しいとさえ言われています。そうした風潮にくみしない、酢酸イソアミル系酵母を使う酒蔵は、「鑑評会に出品しない」という選択をするところもあるくらいです。

 このように吟醸香には、大別して2つの香気成分があるのです。そして概して香り系酵母を使ったお酒は、お燗に向きません。強い香りでお化粧しているようなものなので、お燗で香りが変化してしまったら、バランスを崩し、その魅力は消え失せます。

 しかし、香り系ではない吟醸酒をぬる燗くらいで飲んでみてください。香りも立ちますし、味わいもまろやかになって飲みやすくなるはずです。もちろん冷酒でも美味しいのですが、冷酒ではわからなかった新しい魅力に気づかれることでしょう。

 私は全国的に有名な酒蔵5蔵を集めて燗酒のイベントを主催したことがあります。その5蔵中4蔵は、お燗に向く生酛や純米酒を得意としている蔵でしたが、1蔵だけは、「本醸造でも吟醸香がする」と言われるくらい、吟醸酒で名を馳せている蔵でした。

 お客さんは100名近く集まりましたが、その1蔵の燗酒が美味しくないと文句を言った人は一人もいなかったばかりか、「このお酒はお燗にしても美味しいんですね」と新たな発見をしてもらえました。ここの蔵がずっとこだわって使ってきた酵母が香り系ではなく、酢酸イソアミル系だったのは偶然ではないでしょう。

 日本酒はさまざまな温度帯で飲むことができる、世界的にも珍しいお酒です。燗酒の良さは、冷酒ではわからなかった日本酒の複雑な味わいが引き出され、お酒によっては冷酒よりまろやかになったり、旨味が増したりします。これを「燗上がり」といいます。ですから、日本酒は冷やすだけでなく、お燗も試してみたほうが楽しいと思うのです。

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燗酒を楽しむことで広がる日本酒の世界

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ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び

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