日本人旅行者が知るべきルール
その様子に、従来マリファナが持っていたアウトローで暴力的、ラスタなイメージはない。それに、マリファナの代わりに“カナビス”と表記する店も珍しくない。カナビスは大麻草の学名だが、マリファナの悪なイメージを払拭するために、この言葉を使う業界人が多いのだ。まあ、ホステスが店替えで心機一転、源氏名を変えるようなもん。
ポップアート系内装の「ネイティヴ・ルーツ」
清く正しいイメージは店内も同様だ。広い空間にシンプルな内装の店もあれば、モダンアートを配した
ポップ系や、高級テーラーのような重厚な構えの店など、それぞれ創意に満ちている。
例えば、“大麻界のアップルストア”を標榜する「ユーフローラ」では、
乾燥大麻を透明ポットに入れて陳列。客はレンズで拡大して見たり、匂いを嗅いだりできる。さらに、乾燥大麻の横にはiPadが置かれ、品種や特徴、効用を検索できるようになっている。
“大麻界のアップルストア”を標榜するデンバーの「ユーフローラ」。拡大レンズで、マリファナがよく見えるようになっている
また、隣街、ボルダーの「ザ・ファーム」は農家の納屋を改造した店舗で、ロハスと高品質の地産大麻がウリ。高品質を掲げるだけに値段は高めで、デンバー周辺のジョイント(乾燥大麻を煙草のように巻いたもの)の相場が1本3~5ドルのところ、ここでは7ドル前後で売っている。
デンバーの隣町、ボルダーにある「ザ・ファーム」のポスター。牛も昇天!
私は、「ザ・ファーム」で
ジョイントを買ったのだけれど、パッケージには品種や内包成分、含有率が処方箋のように記載されていて、その薬のような“信頼感”を前面に押し出した新手の商法には、思わず唸ってしまった。
ジョイントと呼ばれるカバコト同じ形態のマリファナ
こうした店には、日本人旅行者も入店できるし、購入もできる。ただし、法律を知らないと逮捕なんてことになりかねないので、以下に注意事項を書いておこう。
①入店、購入できるのは21歳以上。入店時は、パスポートなど身分証明書を提示する。
②購入は現金のみ。
③一度に購入、所持できるのは1オンス(約28.35g)まで。
④未成年者に譲渡、転売しない。
⑤旅行者が入店できるのはストアのみ、薬局には現地医師発行の推薦状がないと入れない。
⑥車内で吸引、服用しない。マリファナの影響下で運転しない。
⑦他州に持ち込まない。
そして肝心なのが、「マリファナ薬局・ストア、道、空港、公園、ホテル、飲食店など、公共の場で吸引、服用しない」こと。となると、現地在住の友人知人がいない限りマリファナを吸えない理屈になるが、世の中どこでも抜け道はある。キーワードは“私有地”だ。
「ダメ。ゼッタイ。」の日本のマリファナ事情とは彼我の差があるものの、アメリカにも相応の規律があることがおわかりいただけただろうか?
マリファナのソムリエ、バドテンダーと語り合う客
では、アメリカ国民は大麻解禁をどう捉えているのか?
米企業ギャラップが昨年10月に実施した世論調査によれば、解禁賛成が60%、反対が40%。これは、調査を始めた’69年(賛成12%、反対88%)以来もっとも賛成の割合が高い数値で、この傾向は’00年以降続いているという。
賛成派の代表的な理由は、最近の研究で、マリファナの中毒性や害は酒や煙草より少ないともいわれるのに、禁じるのは不合理で人権に関わるというもの。
したがって、マリファナによる逮捕や投獄こそ人権蹂躙であり、かつカネの無駄と賛成派は考える。
加えて、法制下で解禁すれば闇市場を縮小できるし、マリファナ税も入って一挙両得という意見も少なくない。
逆に反対派は、マリファナは心身にとって有害で、犯罪や社会不穏を招くと主張する。全米規模の反対派団体「スマート・アプローチ・トゥ・マリファナ」の創設者で、故ケネディ大統領の甥、パトリック・ケネディは、昨夏の集会で以下のように力説した。
「マリファナは成人に危険であるばかりか、子供たちに悪影響を及ぼす。また、中毒のために貧困層をより貧困に導いてしまう」
こうした人々の多くは、マリファナが“ゲートウェイ・ドラッグ”といって、より有害な薬物への入り口の役割を果たすという考えも持っている。
トランプ政権の司法長官、ジェフ・セッションズも反対派の一人だ。長官は、「良民はマリファナを吸わない」と公言してはばからず、「大麻規制緩和に傾く世論に賛同し、法律を変えるべからず」と、議会に圧力をかけ続けている。
オバマ大統領はどちらかといえばマリファナに寛大で、各州の判断に委ねる政策を採った。トランプ大統領は就任後、明確な立場を表明していないが、司法長官の他にペンス副大統領もマリファナ嫌いなだけに、解禁トレンドの後退を危惧する推進派は多い。
私個人は、現代医学では治癒しない病を患う患者に、厳格な法の下で医療用大麻を認めることに賛成だ。それに、もっと研究の門戸を広げるべきだとも思う。
反対に、嗜好用については、科学的研究がより進んでからで遅くないと思う。この世に嗜好品は、他にもいっぱいあるではないか。
野草のごときスカンクのごときマリファナ独特の匂いが、常に漂うデンバーの目抜き通り、16thストリートモール
デンバーの目抜き通りで、マリファナ・ストアに吸い込まれるように次々と入っていく客の波を見ながら、そして、ぷわ~んと漂う野草のようなスカンクのようなマリファナ独特の匂いを嗅ぎながら、そんなことを強く思った。
さて、どうなるアメリカのマリファナ解禁?
取材・文・撮影/柳田由紀子、図版/ミューズグラフィック、写真/アフロ