もし落ちこぼれキャバ嬢が稲盛和夫の『働き方』を読んだら?――歌舞伎町10億円女社長の教え
暴れだした中川さんと、とまどう後輩の方。すると、お連れのお客様が、サッと2人の間に入って、暴れる中川さんを取り押さえたのです(中川さんのお得意様は本当にできた方でした)。
お得意様の前で、しかも本筋と全く関係ないことで暴れるなんて……私はとてもびっくりしました。お酒も飲まず、普段から冷静な私は、たぶん天と地がひっくり返ってもそんなことはしませんから。
中川さんはある意味、とても浅はかな方です。ただ、その一方で、並大抵の「努力の人」ではないと私は思いました。軽々しくおだてられると、本気で怒ってしまう、そのくらい毎日、必死で努力をしているのです。
外では涼しい顔をしながら、水中ではバタバタと水かきをしているアヒルのような私と、暴れてしまうくらい真剣で毎日、努力している中川さんは一見、逆のタイプに映ります。しかし、努力という一点で根は同じなのかもしれない。そう思うと、少しだけ中川さんに同情してしまいます。
それから私と中川さんの交流が始まりました。お店に来ていただけるようになり、自らの経営論を決して押し付けがましくなく、伝授してくれました。しばらくして京セラ、KDDIの創業者である稲盛和夫さんが提唱している「人生の成功の方程式」を教えてくれました。
人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力
この方程式によれば、人生や仕事の結果は、正しい考え方と、熱意と能力を掛け合わせで決まるのだそうです。例えば、私利私欲にまみれたり、誰かを陥れようとしたりという悪い考えを持った人は、熱意や能力が高ければ高いほどマイナスが大きい人生になります。
ただし、熱意と能力は足し算ではなく掛け算なので、生まれつき能力が1しかない人でも、10の熱意を持てば、生まれつき能力が10の人とも張り合えるのです。もちろん、生まれつき能力が10の人が10の熱意で挑んできたら敵いません。でも、そのときは100の熱意で臨めばなんとかなるかもしれないのです。
私はこの人生の方程式をとても気に入りました。正直、自分の能力は、努力したところで限界があります。でも、正しい考え方にも、熱意にも限界はありません。ということは、この人生の方程式を、正しい考え方と熱意を大きく持つことによって、無限大に好転することができるのです。
いつしか、中川さんが並大抵でない覚悟で仕事に臨んでいる根底には、この稲盛さんの考え方があるのだと気が付きました。
この頃から私は、お客様に対して、罪悪感や負の感情を抱くのではなく、もっと心理学を勉強して、店で過ごす時間やキャバ嬢と接すること自体を楽しんでもらおう、喜んでもらおうと思うようになりました。
稲盛和夫さんの本はほとんど読みました。今でも読み継がれる名著『働き方』には、こう書いてあります。
「自分が燃える一番よい方法は、仕事を好きになることです。どんな仕事であっても、それに全力を打ち込んでやり遂げれば、大きな達成感と自信が生まれ、また次の目標へ挑戦する意欲が生まれてきます。その繰り返しの中で、さらに仕事が好きになります。そうなればどんな努力も苦にならなくなり、すばらしい成果を上げることができるのです」
中川さんと稲盛和夫さんのおかげで、私は水商売という仕事を好きになることができました。そして、その水商売に従事している私自身のことも好きになることができました。このことは、お店にも大きな影響を与えました。
水商売を悪い仕事だと思っていた日々、私自身のことが嫌いだった日々、私は店のキャストに対して「私のようになるな!」という負のメッセージを発していました。今振り返ると、キャストの教育どころではなかったような気がします。
女の子には、生まれながらに水商売に向いている子と、そうではない子がいます。これまで私は、水商売向きでない子に対して、仕事で成果をあげてほしいと思いながらも、どこか本当は水商売に染まってほしくないという複雑に入り混じった気持ちを抱いていたのです。
今にして考えると、私が経営するキャバクラ・アップスは、キャストや黒服に対して、まともな教育もせず、やみくもに売上を立てて、それを給料にする。これ以上は絶対に大きくならないブラック会社の典型だったと思います。
でも、仕事を好きになってから、私自身のことも好きになってからは変わりました。正しい気持ちで自信を持って、キャストや黒服を採用、教育することができるようになりました。そうすると、私だけでなくキャストや黒服の間でも、自然と同僚や部下を教育する文化が芽生えていったのです。
水商売に限らずどんな仕事でも正しい考え方と、熱意を最大限に持って臨めば、たとえ能力がそこそこだったとしても、やり遂げることができます。
そうすれば、大きな達成感と自信が生まれ、次の目標に挑戦したいという意欲が生まれます。その繰り返しで、仕事はどんどん好きになっていくものです。これを読んでくれたあなたが自分の仕事も、それに携わるあなた自身も好きになってくれることを祈っています。
<文/内野彩華>
【内野彩華】
新宿歌舞伎町キャバクラ「アップスグループ」オーナー。株式会社アップス代表取締役社長。津田塾大学卒業。25歳のとき、当時勤めていた外資系IT企業をやめて、歌舞伎町にキャバクラを開業。現在、歌舞伎町にキャバクラを4店舗、銀座にクラブを2店舗展開するまでに。キャバ嬢の育成やキャバクラの立ち上げ、経営改善のコンサルティングなども行い、グループ年商は10億円にもおよぶ新宿歌舞伎町キャバクラ「アップスグループ」オーナー。株式会社アップス代表取締役社長。津田塾大学卒業。25歳のとき、当時勤めていた外資系IT企業をやめて、歌舞伎町にキャバクラを開業。現在、歌舞伎町にキャバクラを4店舗、銀座にクラブを2店舗展開するまでに。キャバ嬢の育成やキャバクラの立ち上げ、経営改善のコンサルティングなども行い、グループ年商は10億円にもおよぶ。著書『劣等感を力に変える 成り上がる女の法則』が発売中
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