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高級布団は下町のほうが売れ、関西では天然素材が好まれる――意外と知らない寝具の「地域差」の話<元ふとん屋が教えます>

 こんにちは、元ふとん屋店長の大野です。最近仕事で関西へ行ってきました。定年を機に自宅をリフォームしたので寝具を全部入れ替えたい、という案件です。  聞くとご主人は腰が悪いということで、敷ふとんにはムアツ系のウレタンマットレスをオススメしたところ、言下に拒否。第二案の羊毛100%の敷ふとんで無事に成約に至りました。 布団 とはいえ……準備段階からウレタン素材が嫌がられるのは予想済みだったんです。  なんで拒絶されるのがわかってたかって? 実は関西は関東に比べると、今なお天然素材への愛着が非常に強い地域なんです。10年以上前の関西ではウレタンマットレスの販売は半ばタブー。敷ふとんなら、わたはコットンかウールと相場が決まっていました。最近はかなりウレタンも浸透しつつありますが……まだまだ途上です。  ちょっとマニアックな話になってしまいましたが、このように、生活に密着しているだけあって寝具の常識には地域差も大きいんです。  そこで今回は僕が見聞したいろんな地域の特色を、ちょこっと紹介しちゃいます。

東京都心部は山手と下町で逆転現象が起きる

 僕の店は東京都港区にあったのでよく言われたのが「お金持ちが多いから高級品がよく売れるでしょう?」というもの。  これ、勘違いです。ハッキリ言って都心のお客さんは寝具にはお金を出しません。  ケチなのか? いいえ、そうではなくて、興味がないんですね。山手の人は良くも悪くもシビアで、欲しければ買う、興味がなければ大胆にカットする。いったん良いと思えばどこまでも付いてきてくれる一方、眼中にないとなればビタ一文出しません。  僕はこういう山手の考え方がやっぱり好きだったし、遣り甲斐がありましたね~。うちの店は商品の8割がオリジナルでしたが、山手の酔狂なお客さん方には本当に支えられました。  一方の下町は、「寝具にはお金を出すもの」という常識がまだまだ幅を利かせる世界です。必要不要というよりは「良い寝具=必要なもの」という感じです。良い品というお墨付きがあれば割とびっくりする単価のものもニコっと買ってくださいます。  現在でも東京でお高い寝具を動かしているのは圧倒的に下町の方々です。羽毛ふとんなんて単価で言ったら倍以上の開きがあるんじゃないかな。

分厚い羽毛を好む東北地方

 羽毛ふとんの中わた充填量は近年1.2kgで落ち着いたようです。掛け心地と暖かさのバランスがいいんですね。  ところが、そうした風潮など涼しい顔で知らんぷりしているのが東北です。東北地方では現在でも冬用の羽毛ふとんを「本掛け」と言って1.4kg充填することが少なくないです。大昔にはある大手メーカーの充填量議論を東北の店舗たちが地元の好むボリュームへ牽引し、実際に日本中の羽毛ふとんを1.4kg入りまみれにしたこともありました。  でも考えてみれば、青森と高知で同じものを売ろうとするほうが変な訳で、東北に現在でも地域性が残っているのはとても望ましいことだと思います。
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湿気に悩む奈良県や寝具店空白地帯の沖縄県
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