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発達障害者のためのライフハック本が話題「“普通の人”との隙間を埋めていきたい」

「発達障害者はみな特別な才能がある」説のウソ

――同時に、定型の人が読んでも発達障害者が持つ世界観のアウトラインがわかるようになっていますね。 借金玉:僕らにとって世界がどう見えていて、どんなフォローが必要なのかを可能な限り当事者視点で提示するような本が売れているのはある意味、発達障害者と定型発達者の断絶を示すものでもあると思います。  発達障害者としての自分をわかってもらいたいという気持ちが全くないといえば嘘になりますが、助けを乞うて救われようというような期待はしていません、しても辛いだけですし。ただ、「わかってくれ」と叫ぶのではなく、ああいうやり方であれば、定型の人も発達障害者本人にも理解しやすいと思いました。 ――わかってほしくないわけではないけど、期待はしない。複雑な心境ですね。 借金玉:本を書いた目的としては、「発達障害者の役に立ちたい」というのももちろんありますが、「売れる本を書きたい」「お金が欲しい」「ちやほやされたい」という気持ちが無いと言ったらウソになります。役に立つということは、お金がもらえるということですからね。  ASDやADHDと診断されても、実質的なメリットはほとんどありません。障害者手帳が必ずもらえるわけでもない。コンサータなどの薬物治療が唯一のメリットです。  その上、僕は事業の失敗で一度すべてを失っているので、もはやこういう手段を通じてしか未来をポジティブに思い描くことができなかったので本を書いたというところがあります。  そうでなくても発達障害者の多くは刹那的で、未来を長期的に見据えて行動することが苦手です、あるいは考えても明るい展望はなかなか見えてこないことが多いですしね。  でも今回、本が売れたことで「もしかして自分にも老後があるのかも」とわずかに夢を見ることができた。ライターの仕事も、増え始めて助かっています。でも、またいつ二次障害の鬱になって動けなくなるかわからないし、来年の収入があるかどうかも期待していない。いざとなったら、生活保護をもらおうとも思いますし。  社会に過剰な期待はしません、未来にも過剰な期待はしません。今日やるべきことをなるべくやって、一日一日を生き伸ばしていきます。僕はそういう感じで生きています。 ――借金玉さんは本を書くことで自己救済に繋がりましたが、「発達障害は人にはない特別な才能を持っている」という通説が当事者たちを生きづらくしていますね。 借金玉:裏を返すと、特技や才能のない発達障害者を社会が承認することがあるのか?ということです。  発達に偏りがあるために一つの能力が突出しているケースが稀にあるだけで、全員が特別な才能を持っているわけではないと思います。  著名人など英雄的な存在を除くと、その他大勢は凡人です。例えば、スティーブ・ジョブズも発達障害者だったという俗説がありますが(※編集部注 根拠はない)、僕は自分がジョブズではなくただの障害のある凡人だと気づくのに何十年もかかりました。「発達障害は個性だよ」と言われるたびに、「いやいや、辛いんだよ」と思ってきました。  そんな平凡な発達障害者でも「社会が何と言おうとも、生きているだけでOK」ということを訴えたかったんです。
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発達障害ではない人だって、普通の社会に疲れている
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