この社会はフィクションと割り切り、そこでの作法を身につければいい
――SNSで発信を続ける中で、発達障害を持つ方が多いと感じられますか?
借金玉:はい。反応をくれた人の中には、診断を受けたという人が10人以上いますし、その他まだ精査できていませんが、連絡を受けている数から見て潜在的に数百はいるだろうと思います。あるイベントに登壇したときも、会場に来ている半分の方が診断済みでしたし。
SNSには自覚がある人のほか、何らかの、問題解決の糸口を求めて来る人が多いです。僕のブログを見て診断を受けたら案の定、そうだったという人もいますね。
――本ではたとえば、会社組織を「部族」と称し、そこで発達障害者がつまづきがちな定型のコミュニケーション作法を説明していますね。「相手を褒める」ことは部族内の見えない通貨を支払うことと説き、「『褒める』と聞くとたいていの人はレトリックのほうを重視しがちですが、 重要なのはむしろタイミングです。音ゲーに近いですね」(本文ママ)など。ほか、「飲み会は部族の祭礼」、「雑談は儀礼的プロトコルの相互確認である」など、理由がないと理解できない発達障害者に向けてわかりやすい言い換えがなされています。
借金玉:アイデアのコアになったのは、知り合いの発達障害者の「この社会はフィクションだ」という言葉でした。
会社や組織だってフィクションで、人が三人集まるだけで独自の文化や作法が生じます。定型の人はそこにスーッと入って順応できることが多いですが、発達障害者はこうした社会的フィクションをうまく認識し、渡り歩くことができないことが多い。これは取材の中でも非常に明確に感じました。
しかし、発達障害の表現型は千差万別で、たとえば僕なんかはツイッター上ではフォロワーはたくさん集められるが、社会生活がダメという人です。一人一人、やはり表現型は違う。
「発達障害」というボンヤリした抽象的な概念では、解決のしようがない。お前はどういう障害があるんだ?と言われても本人も説明できないことが多いので。本では、僕自身や周囲の事例から導き出した、極力、汎用性のある内容を書いたつもりですが、ハックはケースバイケースで無限にあるので、各自が自分なりにカスタマイズし、人生を楽にする助けにしていただければと思います。
また、現実を言えば、発達障害者は本を読んでハックを実践できるような人ばかりではありません。発達障害であるという診断にすら辿り着けず苦しんでいる事例もたくさんあります。そういう人たちには本だけでは届きにくいので、何か他の非言語的なものに落とし込むのが今後の課題だと思っています。
●片付けられない特徴は「本質ボックス」で解決
適当な箱を用意し、本質ボックスと名付ける。とりあえず重要と思われるもの(本質)はすべてそこにぶち込めば、いざという時に慌てない。
さらに使用頻度が高いものは「聖別」。さらに大事なものは「神棚」スペースを作って区別する
●人の顔と名前を覚えられなければ、あだ名を付けろ
無理やりにでもあだ名をつけると記憶が定着する。できれば名刺に記録する
●会社は「部族」。部族の掟に従う
―人間関係の間には「見えない通貨」が流通している
【部族の3大通貨】
①褒める
②メンツを立てる
③挨拶をする
●雑談は通信プロトコルの相互確認である
雑談は互いにコミュニケーションが可能かどうかを確認しあうための行為。とにかく同意→話題の提起→同意の繰り返し。決して議論や情報交換をしなければならないと思い込むな。
【良い例】
A「おはようございます」
B「おはようございます」
A「いやぁ、いい天気ですね(話題の提起)」
B「本当ですね(同意)、今年はカラ梅雨になるんですかねぇ(話題の提起)」
【ダメな例】
A「おはようございます」
B「……おはようございます(小声でうつむきながら)」
A「いやぁ、いい天気ですね(話題の提起)」
B「暑いです(不同意)」