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官能小説の逆襲! 出版不況の今、なぜ活況なのか? 15万部超えのヒット作品も

―[官能小説の逆襲]―
 官能小説の逆襲が始まった。ご存知のように近年、出版不況は深刻化し、若者のエロメディア離れも加速する一方。そのため一時は滅びゆく産業と見なされていた“活字のエロス”だが、ここに来て完全に勢いを取り戻したという。今や他ジャンルから作家が続々と新規参入し、作品のバラエティ化も進んでいる。この新しいムーブメントを故・団鬼六氏や宇能鴻一郎氏が活躍した時代と区別するために、「ヌーベル官能小説」と呼ぶ動きもあるようだ。それにしてもネット上に無料のエロ動画が転がっている時代に、なぜ官能小説? 専門誌『特選小説』編集長の畠山健一氏が解説する。 「僕がこの業界に携わるようになった十数年前と今では、シーンが一変しています。ズバリ言うと、小説としてのクオリティが段違いに上がった。今はカラミでヌケるだけではダメ。緻密なキャラクター設定や細かいストーリー描写が読者から求められるんです。官能小説が特殊なジャンルではなく、一般的な小説ジャンルに近づいたと言えるかもしれませんね。また、誘惑系が凌辱系を圧倒している傾向が長いこと続いています」  ……誘惑系? 凌辱系? いきなりの聞きなれないフレーズに、口をポカーンとさせた人も多いことだろう。実はこれ、官能小説で昔から使われている概念。凌辱系というのはレイプや監禁などで、肉体的にも精神的にも(主に男性側が)支配する展開を意味する。それに対して誘惑系は“たなぼた系”“マグロ系”とも呼ばれており、自分から何もしなくても相手女性が言い寄ってくるのだ。 「結局、凌辱系は読むだけでもエネルギーが必要になるんですよ。作品世界に没頭すると疲れちゃう(笑)。やっぱり癒しを求める時代になると、らくちんで受け身な誘惑系が読者にもウケるんですよね」(同)  誘惑系の王道は以下のようなパターンだ。まず主人公男性は10代~20代の童貞、もしくは性的経験に乏しい若者。ヒロインは20代~30代半ばのお姉さんで、人妻であるケースも多い。綺麗な年上女性が優しく“誘惑”してくれるわけだから、たしかに夢のような物語ではある。だが、ここで疑問なのは官能小説のメイン購買層が50代~70代男性ということだ。リアルな自分と主人公であまりにも年齢差があり、リアリティが感じられないのでは? 「誘惑系はファンタジーであると同時に、ノスタルジー要素も強いんです。“童貞を捨てたときの高揚感が忘れられない”あるいは“こんなふうに自分も童貞を捨てたかった”……当時の体験を活字で追体験していく。AVの場合、熟女モノ作品に50代女性が出演することも珍しくないですが、夢を求める官能小説ではNGですね」(同)  ジャンルの細分化も進んでいることも、ヌーベル官能小説の大きな特徴といえる。「誘惑系」「凌辱系」という分類の他に、物語の舞台が細かく設定されているのだ。近年で特筆すべきは、2015年に出版された『処女刑事(デカ)』(著・沢里裕二/実業之日本社文庫)だろう。ミステリーの世界で人気だった刑事モノを官能小説にも大胆に導入し、シリーズ累計15万部越えを記録。これは官能小説では異例の大ヒットだ。それまで、おかみを刺激するような内容はエロ表現においてタブーとされていたのだが、同作によって“ミステリー+アクション+官能小説”という新たな地平を開拓した。 「“刑事モノ”に代表されるエンタメ系の他に、旅情を味わえる“地方モノ”……特に離れ島を舞台にした“島モノ”の読者人気は手堅い。誘惑系の島モノなら、なおさらです。あとは壮年期の主人公が自信を取り戻す“回春モノ”や、義父が息子の嫁と近親相姦関係になる“嫁モノ”も人気ジャンルですね。これまでなかった動きとしては、男女がラブラブで愛し合う“甘々系”があります。その一方で“泣ける系”の作品も増えていて、『どうしようもない恋の唄』(著・草凪優/祥伝社文庫)は今年に入って映画化もされた。それもロマンポルノなどではない一般公開作品ですから、業界内でも大きな話題となりました」(畠山氏)
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