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元中学教師の官能小説家「現役の教員時代、学園モノばかり書くことに罪悪感はありました」

 エロス+ミステリー、旅情、感動の涙……。ここ数年、既存の作品にはなかったカラーの官能小説が盛り上がりを見せている。このムーブメントが「ヌーベル官能小説」と呼ばれていることは、前回の記事「官能小説の逆襲! 出版不況の今、なぜ活況なのか? 15万部超えのヒット作品も」でご紹介した通り。後編となる今回は、実際に執筆を続けている職業官能小説家・橘真児氏に話を伺った。躍進を続けるシーンの深層に迫る。

正義の性戯なる帯文が目をひく橘氏の人気作品『人妻刑事』

「官能だけじゃなくて、他のジャンルも書いてみないかという話はあるんですけどね。どうもその気になれなくて……。官能小説って、書いていて圧倒的に楽しいんですよ。文字の中で、めちゃくちゃに暴れることができる感覚がある。この興奮は、ちょっと他のジャンルでは味わえないと思います」

 官能小説というジャンルは、作家と担当編集者の二人三脚で制作が進むケースが多い。ネタやアイディアを編集者にもらって、打ち合わせを通じてストーリーを膨らませていくのだ。橘氏の最新作『人妻刑事』(竹書房)の場合、「登場するヒロイン2人は、それぞれ天海祐希と石田ゆり子をイメージしてほしい」とまで綿密に伝えられた。

「各出版社からの提案は、はっきり言って無茶振りばかり(笑)。妖怪ウォッチが流行ったときは『快感ウォッチ』というタイトルで作品を書くように言われたし、『玉袋にホクロがあると幸運を呼ぶ』という話を聞きつけた女性編集者から、そのネタで一本書くように頼まれたこともある。今回だって『人妻だけど刑事。そんな2人が色仕掛けで事件を解決するんです』とか言われたけど……そもそも刑事をやっている人妻は普通に実在しますからね。そういった無茶な要求を『じゃあ、どうすればいい?』って必死で考えて、なんとか作品に仕上げていく。そのパズルみたいな工程が一番難しいけど、同時に面白いところです。『好き勝手に書いていいよ』とか言われたら、逆に困っちゃうかもしれない」

無茶振りながらも書き上げた『快感ウォッチ』

 官能小説を官能小説ならしめている要素として、おおよそ他では見かけないようなエロ単語の充実ぶりが挙げられる。たとえば男性器を描写する際も、「ペニス」「チ●ポ」といった直接的表現はほぼ皆無。小学校時代から官能小説に接し、富島健夫、宇能鴻一郎、館淳一、睦月影郎といったレジェンド作家の作品を愛読してきたという橘氏だけに、このあたりのボキャブラリーの豊富さも目を見張るばかりだ。

「同じ言葉を繰り返すのは、単調になるから絶対に避けたいところ。たとえば『肉棒』というフレーズがあるのだから、そこからアレンジを加えて『肉茎』としてみる。あるいは『陰茎』という単語を『淫茎』と当て字にしてみる。最近だと『若茎』っていうのも使ったな。これは自分でも読み方すらわからない(笑)。書いている途中で思いつきました。とにかく大事なのは字面ですね。雰囲気がエロい漢字だと、非常に収まりがよくなるので」

 官能小説である以上、ヌケないと意味がない。ただし最近のトレンドとして、カラミ以外のストーリー部分を丹念に描くことも読者から求められる傾向がある。橘氏の場合、最低でも1章に1回はセックス描写を入れると心がけているそうだが、最終的なバランスは書きながら調整していくという。

「私がすごいと思う作家の方は、濡れ場自体のパーセンテージが少なくても、全体としてはしっかりエロいんですよ。キャラクターの立て方、カラミまでのストーリー展開……そういったところが官能小説家として一番求められる技量なのかもしれないですね。あと私が書く際に心がけていることは、難しい表現を使わないこと。娯楽としてスッと読めるようなものにしたいんです。作品を書く前は扱うテーマについて取材をしたり資料を読みこんだりするけど、それも全部は出さない。あまり説明臭い文章だと、読む気が失せるじゃないですか。シンプルに研ぎ澄ませていくという方向を目指しています」

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年間平均10冊ペースで単行本を上梓

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