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無実の強姦罪で恋人が逮捕され…『ビール・ストリートの恋人たち』監督インタビュー

 2017年度のアカデミー賞までバリー・ジェンキンスの名を知る者は少なかっただろう。同年、アフリカ系アメリカ人だけのキャスト・監督・脚本による作品長編『ムーンライト』(2016年)で作品賞を史上初受賞し、アカデミー賞の歴史を変える偉業を成し遂げたジェンキンス監督。
 そんな彼の最新作『ビール・ストリートの恋人たち』が2月22日に公開される。アフリカ系アメリカ人文学の金字塔であるジェイムズ・ボールドウィンの同名小説を映画化した本作は、前作同様、非常に繊細で美しいビジュアルとサウンドで展開しながらも、アフリカ系アメリカ人が1970年代に直面した“社会的不正義”について問題提起する傑作だ。折りしも2019年度のアカデミー賞で3部門ノミネートを果たし受賞が期待されるなか、バリー・ジェンキンス監督にインタビューを行った。 ★あらすじ  1970年代のニューヨーク、19歳のティッシュ(キキ・レイン)と、22歳の恋人ファニー(ステファン・ジェームス)の物語。ティッシュの妊娠がわかったとき、ファニーは留置所にいた。小さな諍(いさか)いで白人警官の恨みを買って、無実の強姦罪で逮捕されていたのだ。ティッシュは、ファニーを救い出すべく奔走する。

「純愛」と「社会的不正義」の2つの声

――本作はニューヨークに住むアフリカ系アメリカ人の若いカップルの純愛を描いた物語です。原作と映画では、家族や恋人同士の“純愛”と、アフリカ系アメリカ人が直面する“社会的不正義”という2つの声が描かれています。この2つの声を美しいラブストーリーとして語ることは難しかったのでは? ビール・ストリートの恋人たちバリー・ジェンキンス監督(以下ジェンキンス監督):アフリカ系アメリカ人が受けた“不正義”を、怒りや苦しみからではなく、19歳のティッシュの視点――純愛や純粋性をなにがなんでも守ろうとする懸命さ――から描きました。この物語のテーマは社会的不正義というよりは、「社会的状況によって、純愛や純粋性がどのように崩壊していくか」ということで、登場人物の人間性も語りたかった。そもそも、ティッシュは怒りや苦しみを感じるには若すぎるしね(笑)。 ――美しいシーンのなかにも、胸が張り裂けるような恐怖や悲劇を感じました。 ジェンキンス監督:トラウマや恐怖に関しては、恐ろしいイメージを観客に押し付けるのではなく、あえて美しいビジュアルとサウンドで見せることで、ティッシュが抱く家族、恋人や新しい命への愛にどっぷりと浸ってもらいたかった。そうすれば、社会的不正義により引き起こされた悲劇が、より一層観客の心に迫るのではないかと思ったんです。  ティッシュがファニーと初めて結ばれるシーンがありますよね? あの瞬間、彼女は人生で初めて愛し愛されることを知る。物語で描かれる悲劇よりも、このシーンにこそ、ボールドウィンの本当のメッセージが込められていると思います。

ソウルメイトは存在するのか?

――本作のストーリーは時系列に語られず、時空を超えてシーンが展開します。そのアプローチがおもしろいなと思ったのですが。 ビール・ストリートの恋人たちジェンキンス監督:『ムーンライト』のように、本作にも複雑なプロットや物語性はなく、それよりも主人公がどのように感じるかを重点的に表現しました。人間ってA→B→Cのように順番に物事を考えませんよね? 色々な想いがあちこちに飛びます。そんなふうに主人公の浮遊する意識を表したかったんです。 ――ティッシュとファニーがお互いを見つめ合い、触れ合うシーンはとても官能的で二人がソウルメイト(魂の片割れ同士)だとひしひしと伝わりました。監督はソウルメイトの存在を信じますか? ジェンキンス監督:興味深いトピックですよね(笑)。ソウルメイトは信じていますが、ソウルメイトが最終的に結ばれることは難しいと思っています。だって、私たちの住む社会は複雑になりすぎて、ソウルメイト同士が結婚してハッピーエンドになるというのはかなりレアなんじゃないかな。  だからこそ、ボールドウィンの小説に強く惹かれたんです。ティッシュとファニーは幼馴染ですが、幼馴染と結婚したなんていう人は、今どき本当に珍しいですよね。
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原作と異なるエンディング
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【タイトル】『ビール・ストリートの恋人たち』
【公開表記】2019年2月22日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
【クレジット】(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
【配  給】ロングライド


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