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統合失調症の姉を南京錠で監禁した両親。“家族という存在”を20年追い続けた監督の「真意」

 統合失調症の症状が表れた8歳上の姉と、彼女を病気とは認めず、玄関に南京錠をかけてまで精神科の受診から遠ざけた両親の姿を20年にわたって記録したドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』が公開中だ。早くも話題を呼んでいる本作の藤野知明監督にインタビューを敢行。“どうすればよかったか”というタイトルに込められた想いなどを聞いた。
どうすればよかったか?

映画『どうすればよかったか?』(C)2024動画工房ぞうしま

精神科医の立場からの解説は行わない

――非常に難しい統合失調症というテーマですが、精神科医や専門家の監修を受けたのでしょうか? 藤野知明(以下、藤野):私の姉は生きている間、自分が統合失調症だという認識はまったくありませんでした。そのため、この映像を発表するのは、姉の死後と決めていました。当初は未来の姉の医療に役立てるための記録として撮影していました。父親からは許可を得ていますが、母親からは許可を取っていません。一度、姉の主治医だった方の一人に、こういう作品を作りたいと直接相談したことがありましたが、趣旨に賛同していただけませんでした。他に適切な方は思いつきませんでしたので、精神科医の立場からの解説や検討は行っておりません。 ――冒頭に「この映画は姉が統合失調症を発症した理由を究明することを目的にしてはいません」「統合失調症とはどんな病気なのかを説明することも目的ではありません」などのテロップが出ますね。 藤野:私自身も精神科医や専門家ではないので、統合失調症がどういう病気かを解説することはできませんし、作品の目的もそこにはありません。これは作品を作る最初の段階で明確にしたことです。私が知る限りでは、統合失調症の原因はまだ解明されていないと考えていますが、「教育が悪かった」「本人の考え方に問題があった」という言葉を目にすることもあります。根本的に病気の原因がわからないのに、誰かの責任だなんていうことが言えるはずがないわけですよね。僕も素人なので、姉の一例しか知らないわけで、その範囲内で作ったものだということです。  もう少し言うと、「病気」というテーマにフォーカスした話になっていると思われがちですが、実際にはそのつもりはありません。僕としては姉のドキュメンタリーというよりも、姉が統合失調症を発症した後に、私や家族がどのように考え、行動したのかという家族全体のドキュメンタリーを意図していました。だからメインビジュアルも姉ではなく、家族4人が並んでいる状態なんです。

過去作との「反応の差に複雑な思いも」

どうすればよかったか?

映画『どうすればよかったか?』ポスター(C)2024動画工房ぞうしま

――初めて本作を一般公開したのは「山形国際ドキュメンタリー映画祭」だと思いますが、上映に際しての心境や、上映後の反響を教えてください。 藤野:実はその前にも山形国際ドキュメンタリー映画祭には2回ほどアイヌの先住権民に関する作品を応募していたのですが、いずれも落選していました。今回もコンペ部門には落ちたのですが、コンペ以外の形で上映枠(日本プログラム)があるという連絡があり、「山形で上映してもらえるならどんな形でも構わない」という気持ちで受け入れました。  ただ、ドキュメンタリーというジャンル自体、日本ではやはり涙を誘ったりするようなヒューマニズムを重視したものが受け入れられやすい傾向があります。一方、本作は特に統合失調症に関する描写があるので、果たして観客に受け入れられるのかと心配していました。上映前に「普段放送されないような映像が流れます」と観客にアナウンスしたほうがよいかと考えたのですが、かえって余計な先入観を与えてしまうと考え、最終的には特別な注釈は付けずにそのまま上映しました。  最初は来場者が少ないのではないかと心配し、自分でビラを作って配布もしていたのですが、上映日には比較的多くの人が来てくれて正直ホッとしました。質疑応答の際も好意的に受け止めてくれているのを感じました。特に、自分の家族や知り合いに似た状況の人がいる方々は非常に強い印象を持ってもらえたようで、質疑応答後に話をしてくれる方も多くいました。  ただ、私の中ではアイヌ先住民に関するドキュメンタリーと同じく、どちらも人権の問題を扱っているつもりだったので、反応の差に複雑な思いもあります。とはいえ、今回は多くの人が自分のことのように感じてくれたことが驚きであり、嬉しい気持ちもありました。
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平成生まれのライター、編集者。ファミマ、ワークマンマニア。「日刊SPA!」「bizSPA!フレッシュ」などの媒体で執筆しています

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【公開情報】
どうすればよかったか?』は、ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町、横浜シネマ・ジャック&ベティ、第七藝術劇場ほか、全国順次公開中
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