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不倫疑惑をスクープされ大統領になれなかった男――実話サスペンスを主演ヒュー・ジャックマンが語る

 2月1日に公開されるサスペンスドラマ『フロントランナー』は、史上最年少の46歳で民主党の大統領候補となったカリスマ政治家ゲイリー・ハートの栄光と失脚を描いた実話です。当時彼は、ジョン・F・ケネディの再来と呼ばれ、1988年の大統領選のフロントランナー(最有力候補)として世間の期待を一心に集めていました。

The Front Runner
 ところが、あるジャーナリストが彼の不倫疑惑をすっぱ抜き、政治生命が抹消されます。それまで政治家のプライバシーは政治には関係ないという認識のもと、マスコミはあえて報道してこなかったのに、なぜ、ゲイリー・ハートの不倫疑惑は大々的に報道されたのか――? 映画のプロモーションで来日した主演俳優のヒュー・ジャックマンにお話を伺いました。

フロントランナー

ゲイリー本人と会って感じたこと


――ゲイリー・ハートに実際に会って役作りをしたと聞きましたが、彼とどんなお話をしたのですか?

ジャックマン:ゲイリーの自宅に3日間いましたが、彼はとてもオープンで優しく、人を引きつけるカリスマがあるのと同時に、心の内を誰にも明かさないミステリアスなところもある、不思議な人物です。実物は私が演じたゲイリーよりも、さらに捉えどころのない感じかな。

 とにかく、「世界や政治で、今何が起こっているのか」という質問や、不倫疑惑報道について彼と話合いました。それと、私がゲイリーの役柄に真剣に向き合っていること、ベストを尽くして演じる覚悟があることを彼に伝えました。だって、彼の人生における最悪の3週間が映画化されるなんて、心中穏やかでないはずですからね。

――実際のゲイリーとジャックマンさんのスピーチを較べて聞いたのですが、声、リズム、身振り手振りなどがそっくりで驚きました。

ジャックマン:そう言ってもらって嬉しいですね! ゲイリーのスピーチは何千回聞いたことか! ジムでワークアウトしている間もずっと聞いていましたよ(笑)。

――実際のゲイリーが大統領選を撤退したときのスピーチに、「公人の人生のなかには興味深いものもあるが、それは必ずしも重要なものではない」というセリフがあります。あのセリフはそっくりそのまま映画でも使われていますよね。

ジャックマン:あのセリフは映画の核心をついています。誰と誰がくっついたとか、誰と誰が別れたとか、他人のプライバシーやセンセーショナルで強烈な情報に引かれるのは、人間の自然な欲求です。

 私たちは朝起きてスマホをまず見ますよね。例えば、今日のトップストーリーは4つあります、ホラ(と言って自分のスマホを取りだして筆者に見せるジャックマン)。トランプ大統領や貿易摩擦に関するニュースの下には、メラニー夫人とトランプ大統領の関係、ビキニ・クライマーが凍死した事件のニュースがありますが、このなかに、私が本当に知るべき情報はあると思いますか?

 1987年に起きたゲイリー・ハートの不倫疑惑は、今や、単なる“スキャンダル”として扱われて、“ジャーナリズムのあり方”が一変したターニングポイントだったということは無視されています。情報が氾濫する現代は、「なにが自分にとって重要なのか」を決めることが日に日に難しくなっている……。だからこそ、この映画は今の“ジャーナリズムと政治の関係”に対して問題提起をしています。

歴代大統領には女性スキャンダルがつきまとっていた


――ケネディ、クリントン、トランプなど多くの歴代大統領には女性関連のスキャンダルがつきまとっていました。それでも、ゲイリー・ハートが大統領選を撤退した理由は?

ジャックマン:ゲイリーが上院議員を何年も務めた後に不倫疑惑が報道されましたが、彼はその後も政治に貢献してきました。つい最近、彼は結婚61周年を迎えましたが、1988年の大統領選を自ら撤退した理由は2つあります。

 まず、家族をマスコミから守ること。次に、政治の“神聖さ”を守ること。この不倫疑惑があっても、恐らくゲイリーは政治生命を保てたでしょう。でもそのコストは彼にとっては非常に大きすぎた……。とは言え、ゲイリーが大統領選を撤退しようがしまいが、ジャーナリズムによる政治家のプライバシーの侵害は、止められない波だったと思います。

――そもそもゲイリー・ハートが政治家として多くの人々の心をつかんだ理由は?

フロントランナージャックマン:ゲイリーは理想に燃えた政治家で1984年と1988年の大統領選では、ケネディ大統領のように、“時代を変えられる政治家”として当時の若者の心を捉えました。ゲイリー本人も言っていたのですが、彼の能力は15年から20年先の世界を見ることができることだそうです。

 具体的には、アップル創始者のスティーブ・ジョブスがガレージでコンピューターを作り始めたときに、ガレージで一緒にランチを取り、1981年には各学校にコンピューターを配布することを提案しました。それまでの製造業から、未来の産業はITやサイエンスにシフトすることを見越して、アメリカの教育システムを変えようしたのです。

 1983年にはアメリカの石油政策が中東問題や戦争に発展すると予想していましたし、1984年にレーガン大統領がソ連と宇宙開発を競い合っているときに、冷戦はもうすぐ終わることを予見し、ソ連崩壊後にロシアが中東に残すであろう過激派の台頭についてゴルバチョフ氏と話し合っていたそうです。

 ゲイリーは極めて先見の明に長けていたことから多くの人々を魅了し、若者は彼を通して未来を思い描くことができました。

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スキャンダルは共和党の罠だった?

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【フロントランナー】
2月1日(金)~TOHOシネマズ 日比谷他全国公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント





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