更新日:2020年03月10日 16:44
エンタメ

『パラサイト』アカデミー賞受賞で、ますます広がった韓国映画と日本映画の差

かつて日本も世界に通用する作品を作っていたのに……

 ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が第92 回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を受賞した。アジア映画初の快挙だ。『パラサイト』は韓国資本だけで製作されていて、完全に純粋な韓国映画である。
パラサイト 半地下の家族

『パラサイト 半地下の家族』公式サイトより

 韓国映画がおもしろいと言われるようになったのはかなり前のことだ。ポン・ジュノの出世作品『殺人の追憶』は2003年の作品だ。この作品を観て、おもしろさと「大人の鑑賞しうる」内容に、邦画との力の差を思い知らされた。それ以来、他の韓国作品も追い始めた。韓国映画は日本映画の数段上の実力だ。そう認識して少なくとも15 年は経っていることになる。そして、今回の『パラサイト』の受賞で、韓国映画は、日本映画が一生追いつけそうもないところに行ってしまったことを、証明書付きで教えられた。  日本映画の最近のヒット作は『翔んで埼玉』だという。なんじゃこの幼稚さは? 日本アカデミー賞、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞他12 部門受賞らしい(多分、審査員が全員埼玉県人)。私たちは、韓国から日本海を隔てた、ガラパゴス列島に置いてきぼりにされたようだ。アイゴー!  映画は社会の文化的成熟度を映す鏡だ。私たちはいつから「幼稚社会」に住むことになったのだろう。かつては、日本映画も世界に通用する作品を作っていた。『荒野の七人』は黒澤明の『七人の侍』のリメイクだ。ゴジラは世界中でその名を知られている(つまり日本は、スケールの大きな特撮映画で世界に肩を並べていたのだ)。香港映画の祖である映画会社「ショウ・ブラザーズ」の立ち上げ時にはカメラマンなど、日本の映画技術者が多く参加したという。  昔の邦画は純粋なエンターテイメント作品で世界に通用していた。エンターテイメント作品こそ映画作りの体力を計る指標だ。単純におもしろい映画が作れなきゃ意味がない。現在の邦画のエンターテイメント作品は、ツッコミどころだらけだったり、そもそも物語になっていなかったりと脚本が破綻しているか、極端に幼稚なものばかりだ(漫画原作のため、やたらと“心の声”で状況を説明する演出の)。と言っても裏切られ過ぎて、中々邦画には手が伸びず、最近はほとんど観ていないけれど。 『パラサイト』はエンターテイメント作品だ。“格差社会がテーマ”などとステレオタイプの説明をよく見かけるが、格差は物語をおもしろくするための設定で“テーマ”など重要ではない。ホラーともコメディとも取れる。『パラサイト』のウィキペディアにある「ブラック・コメディ」というのが一番しっくりくるカテゴライズかもしれない。分類のしにくさがオリジナリティを証明している。どちらにしても、笑えて、ハラハラドキドキする。
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日本映画と韓国映画を見比べると大きな違いがある
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1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

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