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スナック以外に行き場のない老人は悲しい悪意を撒き散らす――酔いどれスナック珍怪記

 会話をあきらめた訳あり中年男女は『昭和枯れすすき』をデュエットし始めた。平成も終わり世は令和だというのに『昭和枯れすすき』だ。そんな哀愁漂うデュエットにもちゃちゃを入れる中村。大量に飲んだ水割りによって幼児に退化し 「お前たちはヘタクソ!」  なんて言いやがったのでマスターがやんわりと注意したところ 「俺はダサい……」  とわざとらしく落ち込み悲嘆にくれ始めて冒頭に戻る。  彼がカウンターに放り投げて行った紙袋の中には『柳生十兵衛死す』の上下巻が入っていた。きっとわたしにくれるつもりだったのだろう。彼はいつも本を持って飲みに来る。何か理由が必要なのだろう。そういうところが憎めない、愛すべきクソ酔っ払い野郎なのだ。  こんなにも飲食店が溢れかえる世の中で、夜な夜なスナックに集まる人は絶えない。  スナックって一体なんなんだろう。働いていてもよくはわからない。  キャバクラやクラブのように女の子がキャストじゃない。キャストはたぶんお客たちだ。その日集まる顔ぶれによって店の色はガラッと変わる。そういうところに魅力がある。そんな酔っ払いキャストの組み合わせによって日々繰り広げられる珍劇場を、わたしはメモ帳片手にもうしばらく、そっと眺めていようと思うのだ。  中村はみんなの予想通り3日後、来た。〈文/大谷雪菜 イラスト/粒アンコ〉(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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