更新日:2019年12月30日 02:44
エンタメ

<純烈物語>応援されるためにはうまくなりすぎない「白と黒とハッピー」<第3回>

「秘伝の焼き鳥のタレのような味の部分だから誰にもさわらせない」

 ムード歌謡の魅力を広めるには、何よりも自分たちが露出し、求められる存在となる必要がある。酒井は、純烈のライブを一期一会の一発勝負とし、それに勝つためのセットリストをデビュー以来、毎ステージごとに考えてきた。  たとえば60分間という尺の中で、歌とトークはどれぐらいの割合でクライアントに求められているかを見極め、時間に合った曲順を考える。もちろん、その日の客層も想定した上で唄もセレクトする。 「今はだいたい本番の半月前に半月分を一気に作っています。初見の人や、お爺ちゃんお婆ちゃんが多いところは『星降る街角』とか『ラブユー東京』のようなわかりやすいところから入っていこうとかね。そこは僕にとって、秘伝の焼き鳥のタレのような味の部分だから誰にもさわらせない。  もう一つ、セットリストは育成重視だったと思います。メンバーの音楽や歌謡に対する理解力、表現力に関することなんですが、彼らには『うまくなりすぎると応援されなくなっちゃう』って言うんです。10年以上やって、1級上がったぐらいがいい。じっさい上を見ると、五木ひろしさんのような方と同じ番組に出たらお話にならないレベルなんだから。やり繰りする中で意識してきたのは、一番やりたいことは触れられないようにするということ」  音楽的評価で語られると純烈は「生きていけなくなる。なぜなら、もっと上がいるから」。役者をやっていた時代も、酒井の頭の中には常にそうした意識が存在し、物事を判断させた。  ただ、全体の形として持っていくには“健康センターでおばちゃんと戯れている銭湯アイドル”と世間へ認識されるうちは本丸が見えないから都合いい。最近になって、ようやく音楽評論家でありプロデューサーの佐藤剛氏が「純烈はいい作家がいい曲をち密に作っているのに、誰もそこをとりあげない」と評論。  そこから9月15&16日の「あいちトリンナーレ2019」(2010年から3年ごとに開催されている国内最大規模の国際芸術祭)出演までつながった。佐藤氏が声をかけ、酒井はライブのプロデュースも担当。前川清と故・藤圭子のナンバーを純烈が歌う。
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評価されて「とうとうバレたか」
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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