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<純烈物語>応援されるためにはうまくなりすぎない「白と黒とハッピー」<第3回>

評価されて「とうとうバレたか」

 佐藤氏に評価された時、酒井は「とうとうバレたか」と思ったそうだが、これからも何食わぬ顔をして淡々と焼き鳥のタレの味を少しずつ変えながら、それでいて手を抜かずにセットリストを練っていくのだろう。そこにはオーディエンスだけでなく、メンバーに対する裏設定的なメッセージも描かれている。 「楽屋で揉めることはありますよ。不機嫌になるし、不本意な扱いをされたというのが態度に出る。でも、だからどうしたの?ですよ。受けてんじゃん、お金にもなっているじゃん。それをおまえの嗜好だけで変えちゃうの?って。頑張ったやつはちゃんと流れの中で華のあるところに置くし、逆に印象が残らないようにも持っていけるわけです、セットリストの流れで。それはトークの前後左右でもコントロールできるんで。  俺がけなせばお客さんは『そうじゃない!』と思って応援する。それに応えて『ありがとう』でしょ。おまえは、みんながクリエイトしてくれるおまえによって食えるようになった。そのためにおまえは純烈をやっているんだよ。やれって言われたことを、それ以上にやる人間がテレビに呼ばれるんだ。だからそのクセをつけろ。シワになったものを一回伸ばして、人に折ってもらったのを自分で覚えてたたみなさいということですよね」  ステージ上では笑いが絶えず、寸分も乱れぬ呼吸でハーモニーを奏でる純烈も、一人ひとりの人間。何もかもが合うというわけではないのだ。その中で、酒井はプレイヤーである前にプロデューサーとしての自分を貫く。  メンバー、スタッフの誰とも普段はつるまず、仕事として100%やろうとする姿勢が感じられぬ人間とはしゃべろうともしない。個人的な意向はすべてをキッチリやった上でのプラスアルファ的位置づけであり、それならばファンにも喜んでもらえる。  純烈は、そういう場でありたいと思っている。仲間、友達、ライバル、戦友、兄弟……時間や思いを共有する関係性は、いくつかの言い回しによって表わされる。改めて、酒井にとってメンバーはどれに当たるかを聞いてみると――。 「今は町の公園で純烈をやっていたら、それが全国区になっていっているイメージなんですけど……表現が難しいな。この気持ちや人間関係、現象って日本語にされていないと思います。言葉にハメようとすると、すぐ共感されてしまいありきたりの形になってしまう。ある言葉と、ある言葉の間にあるものなんだけど、モヤっとはしていなくて明確ではあるんですけどね」  日本からアメリカへ渡り、世界最大のプロレス団体・WWEで活躍する中邑真輔は、かつて「言葉にすることで、物事が陳腐なものとなってしまう」と言った。ありきたりの表現になり、不特定多数に伝わるのを避けたリーダーがそこにいた。純烈とは、そういうグループなのだ。
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売
純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。
白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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