更新日:2023年04月20日 12:43
お金

大化けする企業を見分けるコツ。激安印刷で150%成長、ラクスルの事例から

固定資産が少なくても、業界を変えられる

 続いて、同社の財務諸表(略して“BS”=Balance Sheet)を印刷業界のシェアNo.1で売上高約1兆4000億円を誇る大日本印刷と比較してみましょう。一目瞭然、明らかに固定資産の割合が異なります。  大日本印刷は、資産に占める固定資産の割当が54%であるのに対し、ラクスルは約13%です。工場を持たない「ファブレス型」の典型的なB/Sの構造になっています。驚くべきは、売上規模も資産力もかなり差が開いている2社にもかかわらず、ラクスルはこの大きな産業を変える力を持っていることです。  なぜなら「ユーザーはすでにプラットフォームを使っているのに、企業側がその波に乗れていない」からです。グローバルに視点を置くと、2007年には石油会社や銀行が時価総額ランキングで上位を占めていましたが、それからわずか10年でこれがアップルやアマゾン、アリババといった“プラットフォーマー”が上位に入れ替わっています。  かつて印刷業界の常識であった「工場を持つ」という事業形態をぶち破ったのです。在庫や工場を持たないことで、リスクを減らすことができます。これは、古い業界ほど利益率を高め、大きな威力を発揮します。  まとめると、ラクスルが急成長できた理由は以下のようになります。 1:古いのに市場規模は大きい業界に参入した 2:長年変わらなかった「需給ギャップ」を解消 3:工場や在庫を持たない「常識破り」の経営で利益率UP  これは、例えるならば、ブライダル業界に近いかもしれません。  結婚式の歴史は長いです。2018年には59万組が結婚しました(人口動態統計)。そんな巨大な市場にもかかわらず、これまでは結婚式場選びというのは複数のカタログを取り寄せて比較検討するしかありませんでした。  しかし、インターネットの発達により、複数の結婚式場の情報を一気に比較することが可能になりました。現在はゼクシィのほか、ウェディングパーク、リクシィなどインターネットを使って価格やサービスの比較を簡単にできる会社が台頭してきました。また、データがWEB上に掲載されるため、紙の印刷コストはほぼゼロになり、在庫を持つ必要がなくなりました。 「結婚式」「印刷」「物流」のように、おばあちゃんでも知っている漢字で書かれる業界は、大きな変革を遂げるポテンシャルを持っていると言えます。もし、大きな市場を変革し、大化けする企業を見つけたいならば、おばあちゃんに「知っている(市場規模が)大きい業界を教えて」と聞いてみてください。令和の時代に、大正〜昭和生まれのおばあちゃんにビジネスのヒントを探る。これが大化けする企業を見つけるコツなのです。  財務諸表を見るだけで、企業のイメージは変わるもの。無機質な財務諸表のグラフだけとにらめっこするのでもなく、その両者を観察することで「気になる企業の未来」はクリアになっていくのです。
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
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