バラエティ番組の耐え難い「気持ち悪さ」
――フリートークやエッセイ、漫才のネタなど、アウトプットの方法がいくつかありますが、それぞれで思考回路が分かれているのでしょうか? 漫才のネタ「玄米」とラジオで話していたチョコボールのエピソードが、非常に構造が近いように感じたのですが。
岩井:ああ、あれは応用できるんじゃないかと思ってネタにした感じです。
――アウトプットの方向性が違うだけで、考え方はいつも同じだと。
岩井:そうかもしれないですね。ただ、エッセイを書いていて気持ちいいのは、なんでもないことから広げて、薄いエピソードで厚く書けたとき。今回のエッセイだと、「通販の段ボールを切り刻んで感じた後味の悪さ」は、マジでなんでもない話ですからね。
――あの話は、ラジオで話していた、映画『E.T.』を見たことがないサンシャイン池崎さんにあらすじを説明するエピソードに通ずる気がしました。E.T.が登場人物を一人ずつ殺していって、最終的にE.T.は主人公が脳内で作り出した想像上の存在だったと、すらすら説明したというエピソードでしたが、サイコっぽい発想をすることが多いですよね。
岩井: “サイコホラーあるある”が好きなんじゃないですかね。まず、あるあるが好きですからね。あるあるに当てはめて話すことはけっこうあります。餡かけラーメンの汁を水筒に入れていった話も、そんな感じですよ。
――どういうことですか?
岩井:公園のベンチで、親子がいて。知らない間に、隣にいる人間が素知らぬ顔で餡かけラーメンの汁を飲んでいる、みたいな。ハンニバル・レクターが、知り合いに、何も伝えずに人の肉を食わしているみたいな感じじゃないですか(笑)。
――サイコホラーの作品が好きなんですね。
岩井:『ソウ』とか『キューブ』とか、ああいう映画が好きですね。邦画だと『模倣犯』とか。あれは何回も見たな。バッドエンドが好きなんです。きれいごとで終わらない感じがいい。嘘だとしてもハッピーエンドにしなきゃいけない風潮、あるじゃないですか?
――それは、テレビのバラエティ番組ということですか?
岩井:ちょっと行き詰ったバラエティみたいな番組で、芸人がスベリまくることを笑いにすることがあるじゃないですか。最終的に「面白いじゃん」って言ってあげないといけないときがあって、すごく気持ち悪い。ドキュメントだと、本当に「面白くない」でいいはずなのに、バラエティだとなぜかハッピーエンドとして回収しなきゃいけないみたいな風潮が本当に気持ち悪い。嘘っぽいんですよ。感動の押し売りみたいなことが多くて、泣くことが正義みたいな。
テレビでみんながなんとなく「普通はこうだよね」って言うことに関して、「本当にそうなのかな?」と思うことが多いんですよ。偏っていることを「普通だ」と言うので「ちょっと違うんじゃないか」と話すと「本当のことを言うな」「腐っている」「ひねくれてる」と言われるから。それっておかしくないですか? 全然おいしくないものをおいしいって言ったり。
――近年、『マツコ会議』『家、ついて行ってイイですか?』『激レアさんを連れてきた。』など、芸能人以外がフィーチャーされる番組が増えているように感じます。岩井さんが言う「作り込まれた気持ち悪さ」を視聴者も感じ始めているのでしょうか。
岩井:テレビ的なバラエティとしてやることがパターン化されすぎているので、面白くないんじゃないですか? 芸能界でもそのパターンを崩してくれる人がたまに現れるんですけど、芸能人がそこを指摘すると、「俺たちの王国を荒らすんじゃねえ」みたいに、急に拒否反応を示すというか。でも、芸能人として上を目指すんじゃなければ、別にいいよみたいなスタンスですよね。
――岩井さんは芸能人なのに正論を言うから拒否反応があると。その縄張り争いの中で、岩井さんはスタンスを崩さずにきていますね。
岩井:そうですね。自分のスタンスを崩さないでいると、そういう人たちに淘汰されるんですけど。「縄張りを荒らされたくないから、淘汰しようとしているだろう」というところまでちゃんと言っておけば、簡単にできなくなるんじゃないかと思っていますね。