澤部と一緒にやれてれば、なんの番組でもいい
――岩井さんの「腐りキャラ」を浸透させた『ゴッドタン』プロデューサーの佐久間宣行さんが、お笑い業界の話題でハライチの名前を出すことがあるんです。今のバラエティ業界では上の年代が詰まっているから、ピラミッドを登るためにはひな壇でいじられて“負け顔”を見せて、もう一度立ち上がるという作業が必要だと。その中で、一度も折れずに来たのはハライチの岩井さんだけと言うのですが、先程の「麻雀でスタイルを崩さない」という話はそこに通ずるように感じます。
岩井:僕もすごいんじゃないかと思いますよ。バラエティ番組ですでに5回くらいアタマを刈られて、よくそのままでいられるなと思わないですか? もうちょっとひょうきんな感じになってもよさそうじゃないですか?
――確かにそうですね。いわゆる“バラエティお決まりのノリ”に合わせにいくというか。
岩井:そうそう。坊主にされたとき、普通にムカついていましたからね。バラエティのノリとしては「イジられてありがたい、ありがたい」ってなるんでしょうけど、そんなの気持ち悪くないですか? なんでそんな嫌なことされてありがたいんだって。理不尽にアタマを刈られたんで、本当に嫌がっている感を強めにして、はっきりとパワハラに見えるようにしましたけど。2時間の生放送中にピアノを弾けるようにならないと坊主にするという流れだったんですけど、坊主にすること自体が面白いってなっているけど、それって別に面白くないじゃんっていう。そういうのがお笑い風だと言っているんですよね。
――それを面白がる視聴者も含めて、どうなのかと。
岩井:そうですね。あれは確実に間違っていたんじゃないかと思います。「なにが面白いんだ」って思っていたからこそ、そこで折れなかった。
――自分を強く持ちつづける姿勢は本当にかっこいいと思います。
岩井:度胸があるんですよね。自分のいいところは、度胸だと思っていますから。もちろんビビることはあるんですけど、土壇場で自分が思った方向にハンドルを切れるかというところで、確実に思った方向に切りますね。
また麻雀の例になるんですけど。周りの3人がリーチしている中、当たりそうで危険だけど、自分としては確実にこの牌を切ったほうがいい。そんな状況で、仮に自分の命が賭かっていても、迷わずに勝負できるどうかということ。普段だったら押せるけど、命が賭かっていても勝負できるかということなんです。自分が確実に正解だと思うのなら、日和らない。死ぬ可能性がありますからね。それこそ、坊主にされて折れなかったら、もう一切テレビに出られなくなる可能性がありますから。
――「岩井のせいで面白くなかった」と思うディレクターやプロデューサーがいるだろうけど、折れないと。そういうことが一回や二回ではなかったわけですね。
岩井:ちょこちょこやってきましたね。折れてやったあとの仕事は楽しくないんですよ。仕事は楽しくやっていきたいじゃないですか。
――仮に一度も折れずに芸能界ヒエラルキーの頂点に行って、ハライチが冠番組をやったとして、どんな企画をやってみたいと思いますか?
岩井:うーん、なんでもいいんですよね。そもそもネタをやりたいと思ってやってきたので。澤部はテレビに憧れていましたけど。でも、じゃあなんで2人でやっているのかと考えたら、そもそも気の合うやつと一緒に仕事がしたいという気持ちがあったと思うので。澤部と一緒にやれてれば、なんの番組でもいいかなという感じもあります。
――何かを表現する企画というより、気の合う澤部さんと一緒にやれたらいいと。
岩井:そうだと思いますと。クイズ番組とかいいんじゃないですか。クイズは好きだし。
――芸能界やバラエティのお約束を覆したいというより、自分たちのテリトリーを守ってやっていくのが目標という感じでしょうか。
岩井:いや、そんなことはないです。そもそも間違っているのに正解とされていることは全部暴いてやろうと思っています。そうしないとつまらなくなるので。僕はそれをテレビのためにやってあげようとしているんです。
岩井勇気(いわい ゆうき)
1986年、埼玉県生まれ。幼稚園からの幼馴染だった澤部佑と2005年に「ハライチ」を結成。結成後からすぐに注目を浴びる。M-1グランプリでは2009年から4大会連続決勝に進出。ボケ担当でネタづくりも担当する。アニメと猫が大好き。特技はピアノ
<取材・文/森ユースケ 撮影/岡戸雅樹>