更新日:2023年05月15日 13:25
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連続TVドラマ化決定『死にたい夜にかぎって』爪切男インタビュー 「ペンギン村みたいな世界が理想」

●「if」という祈り

文庫本書影『死にたい夜にかぎって』

――私小説というジャンルは、著者と作中人物の距離感の塩梅が重要だと思うのですが、けっこうセンシティブな内容もありますし、触れるのが苦しい経験もあったのでは?  もちろん、辛い部分もありました。でも、自分で自分のことを書いているわけですけど、小説の中の自分は完全に別人格という意識がありました。意図的に切り離している、というか。プロレスの例えばかりで恐縮ですが、レスラーとしての自分がこっちにいて、それを客観的に見ている作家としての自分が書く、みたいな感じでしたね。 ――自分の実況中継(笑)。  あと、俺の体験を書きつつも、どこか「祈り」の部分もあるんですよね。現実は、小説のように上手くやれていなかったこともあります。本当はアスカに、こういう言葉をかけてあげたかった……でもできなかった。そこを小説という場を借りて、「if(もしも)」の形でやり直しているというか。 ――「祈り」でもあったのかもしれませんが、過去の女性経験を「かけがえのないもの」として、全力で肯定される姿勢が印象的でした。人によっては、過去の恋愛とかって思い出すのが辛いから、「忘れる」というベクトルに行くことも珍しくないと思うんです。  よく皆さんに「ポジティブですね」と言われるんですけど、俺としては自然なことで、自分がして欲しいことを相手に対してもしているだけなんです。生き別れの母親にも、今まで付き合ってきた女性達にも自分を忘れないでいて欲しいから、自分も彼女達を忘れないようにしよう、みたいな。全部その延長です。 ――爪さんは、ロマンチストですよね。「女が花で、男は花瓶。女の持つ美しさを際立たせらるかは、花瓶である男にかかっている」みたいセリフを臆面なく言えてしまうところもすごい。  勘違いロマンチストみたいなところがありますよね(苦笑)。格好つけても、ぜんぜん上手くいかなくて切ない……。以前、飲み屋で俺の本を読んだっていう女の子に怒られたことあります。そんなロマンチックなこと言いながら、なんで風俗ばっか行くわけ!? って。なんだろう、常に満たされない思いみたいなのがあるんですよね。でも、幸せになったらなったで、俺はつまんないヤツになりそうな気もしますし……そんな葛藤の中でもがきながら、これからもバカバカしいことを書き続けていくんだと思います。  発売されている文庫本では、アイナ・ジ・エンド(BiSH)が解説文を寄稿するほか、マンガ家のポテチ光秀による描き下ろし4コママンガ、爪が新たに執筆したあとがきが収録されている。 <取材・文:辻本 力> 『生活考察』編集人。『仕事文脈』編集部。「タバブックス」社外役員。文芸、カルチャー、ビジネス系の媒体でいろいろ執筆。「CINRA.JOB」で「その仕事、やめる?やめない?」連載中
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文庫本:『死にたい夜にかぎって』

2020年初春、連続テレビドラマ化決定!

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