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作家こだま、鬱をきっかけに性格変わる「むしろポジティブになった」

 日本の最果て、北のどこかに存在する「おしまいの地」、その不毛の荒野で慎ましやかに暮らす一人の主婦。彼女の名はこだま。自分が作家であることを周囲に隠し、彼女は、今日もおしまいの地でひっそりと美しい言葉を紡いでいる。  彼女は同人誌『なし水』をきっかけに、あれよあれよという間に「しがない主婦」から「ベストセラー作家」へと変貌を遂げた。同じく『なし水』に文章を寄せていた私も、彼女のあとを追いかけるように作家となり今に至る。  私とこだまが出会ってからもう6年。お互い物書きとして本を出せる明るい未来が待っているなんて夢にも思わなかった。  このたび、第34回講談社エッセイ賞を受賞した『ここは、おしまいの地』の続編にあたる『いまだ、おしまいの地』を発売したこだまに、私、爪切男がインタビューをすることになった。私とこだま、それぞれのデビュー作『死にたい夜にかぎって』『夫のちんぽが入らない』を手掛けてくれた担当編集者からの依頼である。  正直、困った。私とこだまの関係は微妙なのだ。胸を張って「友達」と言えるような間柄でもなく、「ライバル」と言うのも少し違う気がする。何よりちょっと照れ臭い。  でも、だからこそこの仕事を受けることにした。私は久しぶりにこだまと話をしたかったのだ。  今回、インタビューの場となったのは太田出版近くの焼肉屋。  なぁ、こだま。俺たち、肉を食いながら仕事ができるご身分になったんだな。

匿名で執筆活動をしているため紙袋で顔を隠す作家こだま。インタビュアーは笑顔が虫の裏側に似ていることでも知られる爪切男

あのさ、なんでタメ口なん?

――こだまさん、おひさしぶり。なんだかんだ二年ぐらい会ってなかったけど元気だった? こだま:うん、全然元気。爪さんも元気そうだね。 ――これは『いまだ、おしまいの地』についての取材なんだけど、本の素晴らしさについては他の媒体の皆さんが書いてくれるはず。だから、俺は一緒に飯でも食べながら、最近のこだまさん自身について聞こうかなって。あなたって心境の変化が作品にモロにあらわれる人だしさ。 こだま:まぁ、そうかもしれないね。 ――じゃあ最初の質問は、書き手としてのスタンスの変化について。俺たちは同人誌の頃からの付き合いだけど、あの頃と今では書く上で何か変わったことある? こだま:ああ、うん、そうだねぇ。同人誌の頃はさぁ……。 ――ごめん、インタビュー進める前にちょっといい? こだま:え? はい? ――あのさ、なんでタメ口なん? こだま:(笑)。 ――あなたの方が年上だからいいんだけどさ。出会ってからずっと俺に敬語だったのに、半年前から、メールの口調とか何の前触れもなしにサラっとタメ口にしたよね? こだま:もう別にいいかなって。6年ぐらいの付き合いだし、友達感覚だよ。安心してほしいんだけど、爪さんのことを下に見ているわけではないよ。 ――そこまで卑屈に思ってない(笑)。でも、今回の本は、そういうこだまさんの「もういいかな?」って心境で書いたものが多い気がするね。それがポジティブな作風への変化につながってる気がする。 こだま:ああ、そうかもねぇ。 ――同人誌のときや『夫のちんぽが入らない』を出したときは、他人の反応にビクビクしてたり、ネガティブな感情を込めて書いたりしてることが多かったしね。 こだま:きっと、そうなんだろうね。 ――やる気出せよ。全部俺が説明してるじゃん(笑)。 こだま:私、Twitterにもつぶやいたけど、爪さんっていくら褒めてくれてもなんか薄いんだよな。 ――おまえがあんなことつぶやくから、あれからいろんなものを褒めにくくなったんだぞ! こだま:いつも無理に褒めようとするからじゃん。 ――そんなことない! もうやめろ! この質問はおしまい!
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「メルヘンを追って」の真実
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