日本の自称保守の愚かさ。台湾の蔡総統圧勝でなぜはしゃぐ?/古谷経衡
1月11日、台湾総統選挙は大方の予想通り民進党の蔡英文氏が再選した。不思議なのは、この選挙で日本の自称保守系言論人や議員が大はしゃぎし、櫻井よしこ氏を筆頭とした識者らが台北市で日本人訪台者らと共に誇らしげに祝杯を上げている様子などがSNS上でしきりに観測されたことである。
「LGBTには生産性はない」で雑誌をひとつつぶしたこと&ジャーナリストの伊藤詩織氏への中傷映像がBBCを通じて世界中に流れたことでお馴染みとなった自民党の杉田水脈議員は、訪台こそしなかったものの、なぜかここぞとばかりにSNS上で蔡英文再選を祝った。
正直申し上げて、蔡英文と民進党はLGBTに完全に寛容で、昨年にはこの蔡政権下でアジア初の同性婚法が法制化したのである。杉田やその支持者の思想とは、相容れないどころか真反対である。
そればかりではない。アイヌは先住民族ではないとか、原発は必要不可欠で推進するべきだとか、捕鯨は日本の伝統文化である、などと普段は口を揃えてドヤ顔で言う彼ら自称保守派は、蔡英文と民進党支持層がいかに、自らの偏狭で差別的な世界観とは相容れない進歩的な価値観を持っているのかということに対して無頓着か、あえて目を背けているようである。
’16年、蔡は台湾少数民族に対する迫害を史上初めて認めて公式に謝罪した。また、民進党は’17年度、’25年までの脱原発を党の公約に掲げた。当然、蔡も原発廃止論者である。
また党や総統としての公式見解ではないものの、蔡の支持者には欧州留学帰りの青年層が多く、昨年国際捕鯨委員会を松岡洋右のごとく脱退した日本の商業捕鯨再開姿勢には概して懐疑的である。
そう、つまり蔡英文と民進党、そしてその支持層は、政治的世界観は得てして北欧社民型のリベラルで、日本の自称保守派が毎日のように呪詛として使う「パヨク」そのものなのである。この事実にまったく触れようとせず、日本の“自称保守”が台湾に行って大はしゃぎしているのだから気の毒というか哀れになってくる。
すなわち、彼らが蔡の再選に狂喜するのは「中国憎し」その一点であり、それ以外にはない。一国二制度を否定し、独立路線を濃厚にする蔡英文と民進党は、日本の自称保守にとっては「中国憎し」の一点のみをもって親近感と連帯の対象である。
蔡総統の思想は、日本の“自称保守派”とまるで違う
蔡英文支持層は北欧社民型リベラル
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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