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キャバクラとスナックの違いはバレンタインの接客に現れる

女大好きおじさんのワンパターン

 新木さんという人がいる。歳の頃は五十ちょっとだがかなりの女好きで、簡単に言うと女なら何でもいいみたいなレベルの人だ。彼は目の前や隣に女性がいるととりあえず口説き始める。  ある時、新木さんから「最近きれいになったよね。色っぽくなったよ。何かあったでしょ」とベッタベッタなことを言われた。あまりにも典型的すぎるけどこんな下の中オンナにわざわざそんなこと言ってくれて悪い気はしないし、だけどもうこのやり取りここ二年で約六回目ぐらいだし、そんなにちょいちょい「何か」はないし、雑すぎんだろとか思いながら適当に「この間イケメンと遠隔ロータープレイしちゃったのバレたか~!」とか言ってると、「俺はユキナちゃんには幸せになってほしいと思ってるんだよ!」と説教臭い方向に加速して、「俺は本当のキミをわかっている」系口説きに舵を切った。 「ユキナちゃんはそんなことばっかり言ってるけど、実は本が好きでインテリっぽいところがある真面目な人じゃない? 俺、そういう女性好きだよ」。はいハズレ。本は好きだけど知性の欠片もないし、どちらかというとかなり不真面目です。  そろそろぶった切って話題を変えようと思っていると、ちょうど女性の常連客が来店して彼の隣に座ったので、わたしは酒を作った後、場所を変えて当店の御神岩もとい田中の前あたりに立った。麦焼酎一杯を賭けてサイコロを振り、だんだんと酔いも回って楽しくなってきた頃、聞き覚えのある台詞が耳に飛び込んでくる。 「俺はね、なんだかんだで△△ちゃんには幸せになってほしいと思ってるんだよ」 「△△ちゃんはさ、結構乙女っぽいところもあるじゃん。そういうの俺好きだよ」  新木さんが隣の女性を口説いていた。  思わず笑いそうになってしまったわたしと、そして先ほどまでのわたしと彼のやりとりが聞こえていた周りの人々は思うのである。お前そのパターンしかないんかい、と。  こういうのは度々ある。マンコ舐めさせろおじさん中島がマンコ舐めさせろと言う前段階の台詞は決まって誰にでも「君みたいな子はなかなかいない」だし、なかなかいない人間が一日何人いるんだよって感じだし、元キャバ嬢が隣の男性に言う台詞は「この煙草美味しいですよね~!わたしも昔吸ってたんですぅ」だし、お前一体何回銘柄変えてんだよって感じだし、「その服わたしも持ってるんですよ~」って近づいてくるアパレル店員かって感じだしで、またそれかよっていう面白さはあるけどバリエーションの少なさに頭が痛くなってくるし、傍観しているわたしの方が謎に恥ずかしくなってきて、これも共感性羞恥ってやつの一種なのかしらとか思ったりする。  全体から見て違和感なく、各々に合った対応をするのはわりと難しい。まずちゃんと相手の話を聞くことと、それから自分のキャラクターの根幹をある程度確立しなければならない。と思ったことろで我が身を振り返ってみると、わたしは基本的にずっと酔っぱらっていて、誰の酒でも図々しく奪い取り、ずっと下ネタと暴言を吐いているだけなので、これもワンパターンなのでは? と軽く落ち込んだあと、キャラを崩すことなくそれぞれのお客さんに見合った対応ができるマスターはやっぱり偉大だなぁと思ったのでありました。  というわけで、皆さまが忖度のない本命チョコをたくさん貰えますように。合掌。〈イラスト/粒アンコ〉
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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