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キャバクラとスナックの違いはバレンタインの接客に現れる

普段は仏頂面したおっさんも、思わずヤニ下がった笑みを浮かべてしまう飲み屋の珍行事・バレンタイン。やる気のないキャバ嬢時代、定型化されたセリフと義理チョコを金太郎飴のように均等に振りまいていた筆者は、スナック勤務を機にその態度を改めたという。転向のキッカケを探っていくうちにキャバクラとスナックの違いが見えてきた。

第十七夜 「さしすせそ」ではつまらねぇ

 全国の酔っぱらいの皆さん、この原稿が落ちていなければハッピーバレンタイン!  イベントごとが嫌いじゃないわたしは、毎年菓子メーカーの商法にまんまと引っかかって百貨店のバレンタイン特設フロアにとりあえずは足を運ぶのだけど、士気の高まった戦場のような空気に呑まれてゲンナリしてすごすごと退散し、まぁどうせ皆酒飲みだから甘いもんそんなに喜ばないしな、と一階の食品フロアでお茶漬けだの漬物だの買い込んで、田舎のばあちゃんのお土産セットみたいな色気もクソもないものを常連の皆様に配ったりしている。  こういう時、なんとな~くそれぞれに合わせたもんを選ぶのが案外楽しい。一人暮らしで米ぐらいは炊くという男性にはお茶漬けとか佃煮セットとか選ぶけど、あの人は一切自炊しないって言ってたから米に合うもんあげても仕方ないから酒に合うチーズかな、とか。尿酸値高いらしいから炙り明太子はマズいかなとか。  じゃあ入浴剤にしても良いけどほとんどシャワーだけって言ってたしな、とか。別にそんなん気にせず無難に全員に同じチョコ配っとけよって思われるのかもしれないけど、皆同じじゃつまらないのである。わたしが。  そんなこんなで、みんなに同じ対応じゃつまんなくてそれぞれにしたいわたしだが、太古の昔に働いていたキャバクラという場所では、みんなに同じ対応をすることのラクさを味わっていた。  キャバクラは基本的に指名のお客さんと一対一で隣に座っているから、全員に同じことを言えた。「○○さんの席だけが唯一の癒しだよ~」とか「××さんと話してる時が一番楽しいよ~」とか「こんなこと他のお客さんには言えないんだけどね」とか。調子の良いことを全員に言っていた。ひとえに、指名のお客さん同士が接触することが殆どなかったからだ。  スナックというカウンター越しの会話がほぼ全員に筒抜けになる環境で、難しさを覚えたのはそこだった。同じカウンター越しでもガールズバーのように女子がたくさんいるわけでもなく、リクエスト制度(いわゆる指名)があるわけでもなく、別段自分を目当てに来ているわけでもない。それぞれに合った対応かつ周りに聞かれても大幅にキャラ変していると思われない程度にとどめなければならないのが難しくも面白い。  極端な例を挙げると、Sなお客さんの前でMに振舞ってみても、その隣に座るMなお客さんの前でいきなりSキャラになったらキャラがブレブレなのである。 「さすがですね~」、「知らなかったですぅ~」、「すごいですね~」、「せっかくなので~」、「そうなんですかぁ~」。そんなファッキン「さしすせそ」はいつまでも使い回せないし、最初は使えたとしても、周りのお客さんも聞いているだけに「あいつ結局誰にでもいっつも同じこと言ってんな」となるわけである。スナックという狭い密閉空間、ましてや常連同士横のつながりの多い空間、自分のことはその場の全員に見られているし伝わっていると思ったほうが良い。そしてそれはお客側も同じである。
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女大好きおじさんのワンパターン
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