女性は全員好きです。一律一位です
いいことも悪いこともイベントにすれば愛になる
爪:僕、最近よく言っているのですが、自分の本に書いていることすべてが事実ではなく、あのときこの言葉を言えていたらこうなっていたかな、という願いも入っています。あまりにも悲惨だった出来事は省いていますし、笑えない点は笑えるように変えたので、再構築というか、人生の総決算という感じです。書くことでようやく前に進める、成仏できる、と。だから文庫のあとがきにも「これは誰の本でもなく自分のための本だ」と書いたんです。
愛:爪さんは書いて実体験の反省や後悔などを笑いや楽しかった思い出に昇華するタイプですよね。私の場合、書いても特に何かが変わるタイプではないので、書かずにいられない人を見ると羨ましいです。
――愛さんは昔から恋愛相談をよく受けていたのですか?
愛:友達同士で「こないだ彼氏がこんなこと言ってきてさ~」のような愚痴や恋バナはしていましたが、相談といった相談は特にありませんでした。私、必要以上に相手に踏み込まないというか、良い意味で他人に興味がないんです。
爪:それ、僕も同じです。
愛:でも、一応相談してくれているし、その情報を元にできる限り誠意を持って正直に答えようと思っているのですが、責任を取ることはできないので決めつけずに、結論は本人に委ねるようにはしています。「ズバッと答えていますね」と言われがちですが、これでもすごく優しく書いています(笑)。基本的に私は常にみんなに幸せでいてほしいと思っているので、空回った回答をして相手を傷つけたくないという思いもあります。
――爪さんは、唾を売ったり浮気を繰り返すアスカさんを許したり、どこか歪んだ愛を感じます。精神を病んだ女性に自ら近づいて行っているのでしょうか?
爪:そのような女性に近づいていっているわけではないのですが、知り合うことは多いです。あと語弊がある言い方かもしれませんが、リストカットも否定しません。
――リストカットは生き延びるための代償行為だと精神科医から聞いたことがあります。
爪:僕の場合、あえて踏み込むんです。リストカットの写真が送られてきたら「本当に死にたいと思ってないでしょ?」と返信します。「リストカットを止めろ」という否定は誰にでも言えることだから、そこに至ってしまった経緯は肯定した上で、別の視点で問題を考えられないかって思うんです。
愛:相手によっては「私のリストカットは甘かったのか……ってことは私は本当は生きたいんだ!」と前向きになる人もいるかもしれませんが、中には「こんなに深く切ったぜ! どうだ! 見ろ!」と拍車がかかってしまう人もいませんか?
爪:それなら僕は、立会人として目の前でリストカットを見届けたいって言います。いちかばちか、単なる自傷行為を二人のイベントにしてしまうんです。日々のちょっとした出来事も大袈裟にして楽しんでしまえばいい。
愛:いいことも悪いことも?
爪:たとえば、彼女がリストカットを1日我慢したら服を買ってあげたりしてご褒美をあげる。もし彼女が1センチ切ってしまったら、リストカットをしたくない僕も2ミリ切るとか二人だけのルールを決めて、彼女の自傷行為が日々の生活に影響を与えるようにする。そんな風に何でも二人のイベントにすれば、より良い再生の道を一緒に探せるんじゃないかなって思います。
僕は閉所恐怖症持ちでメンタルクリニックに通っていましたが、アスカと同じクリニックに転院しておそろいの診察カードにしたら、なんだかペアルックを着ているような幸せな気分になれました。あ、でも、僕は何でもポジティブに考えればいいと思ってたり、リストカットを推奨したりする無責任でヤバい奴じゃないですからね! 止める時はちゃんと止めます!
フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ、。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は社会問題、生きづらさ。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)、『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)『生きづらさにまみれて」(晶文社)、『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)
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